『人妻あや 悪夢の別荘地』 第2話 招かれざる訪問者 Shyrock作
ドアを開けるとそこには若い男女が立っていた。
男性は長身で彫の深い濃い顔立ちをしていた。一方女性はスモーキーアッシュでセミロングヘアの当風美人であった。
二人は申し訳なさそうな表情でペコリとお辞儀をした。
「夜分遅くにすみません」
「いいえ、困った時はお互い様ですから。ガスの調子が悪いのですか?」
「はい、メンテが悪いのかコックが硬くて開かないんですよ」
「それはお困りでしょう。ガス会社の連絡先を調べるので、ちょっと待っててくださいね」
「お手数をお掛けしてすみませんね」
俊介は二人を玄関先に待たせたまま階段を駆け上がり二階に消えていった。
おそらくLPガス事業者の連絡先を記したものが二階に置いてあるのだろう。
俊介が二階に消えていったあと、笠原は百合に目配せをした。
百合は小さくうなずくとそそくさと靴を脱ぎ、笠原とともに無断で上がり框に上がった。
二人は我が物顔でずかずかと廊下を進み、あやが寛いでいる居間へと向かっていった。
その頃、あやはソファに座ってファッション雑誌を広げ就寝前のひとときを過ごしていた。
人の気配がしたので振り返ってみると、そこには見知らぬカップルが突っ立っているではないか。
「じゃまするよ」
笠原はぶっきらぼうにあやに告げた。
あやは突然の見知らぬ訪問者に一瞬言葉を失ってしまった。
「……?」
あやは訝しく思ったが「俊介が二人を招き入れたのだろう」と思い返した。
そんな事情であれば見知らぬ訪問客とは言っても、あまり粗雑に扱ってはならない。
「立ったままも何ですし、どうぞお掛けください」
あやは二人を気遣って自らはソファから立ち上がり席を譲ろうとした。
「言われなくても座らせてもらうぜ」
笠原は太々しくつぶやきながらあやのいる居間へと入ってきた。
どうも様子がおかしい。
俊介はこんな無礼な人間を本当に招き入れたのだろうか。
あやの脳裏にそんな疑問がよぎったが、次の瞬間笠原はポケットから小型のナイフを取り出しあやに見せつけた。
「えっ?あなたたちは一体……!?」
「大きな声を出すな。痛い目に遭いたくなきゃ大きな声をだすんじゃねえ。いいな?」
笠原はあやの首にナイフをくっつけ凄んでみせた。
冷たい感触にあやは震え上がった。
「お、お願い……酷いことはしないで」
「大人しくさえしていりゃ何もしねえよ。騒いだりすると命の保証はねえからな。分かったか?」
「わ、分かりました……」
「百合、ちょっと代わってくれ」
笠原はナイフを百合に預けて、自らはバッグからロープを取り出しあやの後方に回り込んだ。
「さあ、両手を後に回しな」
「どうして……?どうしてこんなことをするの?」
今度は前方から百合がナイフをちらつかせあやを威嚇する。
「つべこべ言うんじゃないよ。私たちの言うとおりにしてればいいのよ」
あやが怯んだ隙に笠原は手慣れた手付きであやを後手に縛っていく。
あやの両手ががっちりと緊縛された頃、二階から俊介が降りてきて玄関へと向かった。
「待たせましたね。やっとガス会社の連絡先が分かったので……あれ?」
玄関にいるはずのカップルの姿が見当たらない。
ちょうどその頃居間に人の気配がしたため、俊介はあやが二人を招き入れたものと思い、おだやかな表情で居間へと向かった。
「お待たせしました……えっ!?な、何っ……!?」
俊介は次の瞬間、その信じられない光景に愕然とした。
先程玄関にいた女はあやをナイフで脅し、あやの後方には縄尻を握った男が眼光鋭くこちらを睨んでいるではないか。
俊介はいったい何が起こったのか全く理解ができず困惑するばかりであった。
「あ、あや!!だいじょうぶか!?君たちはいったい……!?」
「おおっと。大声を出すなって。大声を出すと奥さんの命は保障しねえぜ。とにかく俺たちの言うとおりにするんだ」
「LPガスの不具合と言うのは嘘だったのか?」
「ふんっ、そんなの嘘に決まってるだろ」
「うっ……もしかして隣の別荘の人間と言うのも嘘なのか?」
「そんな話マジで信じてたのか?よほどめでたい性格だな!がははははははは~~~!」
「き、貴様!よくも騙したな!!」
俊介は拳を振りあげ笠原に挑みかかろうとした。
「おおっと、奥さんがどうなっても構わねえってのかっ?」
笠原はあやの首筋にナイフを宛がって凄んでみせた。
「や、やめろ!あやには手を出すなっ!」
「ほぅ、奥さんは『あや』って言う名前か?」
笠原は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「大事な奥さんに怪我をさせたくねえならつまらねえことはやめな!おい、百合、奥さんから目を離すなよ」
笠原は百合にナイフを預け自分は俊介の元へと歩み寄った。
「旦那は油断がならねえから、ちょっとの間大人しくしててもらおうか」
言うが早いか俊介のみぞおちに笠原のボディブローがさく裂した。
「うぐっ!!」
俊介はうめき声をあげてそのまま崩れてしまった。
「あ、あなた~~~!!あなたたち、乱暴はやめて!!」
あやの悲痛な声が山荘内に響きわたる。
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