第1話
彼氏いるのにコンパに行く
の巻
「昨日、どうだった?」
「大したことなかったよ。なんかつまんなかった」
「どうして?」
「もう、超感じ悪い奴がいてさぁ、楽しむどころじゃなかった」
「Z大のコンパだろ?」
「大学生なのに、酒は飲めない、カラオケはヘタクソ、女の子の前で堂々とシモネタ話す、おまけにキス魔までいたもん」
「だから行くなって言ったのに……」
「だって、だって!」
「それに、ありさ、その『チョ~なんとか』って言葉遣い、どうにかならんのか?」
「いいじゃん」
「よかない」
「なんで?」
「なんだか頭痛くなるんだ。まあ、やめろとは言わないが……」
「ふ~ん。ね、それよりさ、この間、代官山で素敵な男の子を見かけたの!」
「……で?」
「今、探してるんだけど、なかなか……」
「目の前に彼氏を置いて言う台詞か?」
「カレシ?誰が?」
「ありさ、最近、意地悪くなってきてないか?」
「だってぇ、誰かさんがデートに誘ってくれないんだも~ん」
「金欠、ガス欠、おまけに時欠だから、仕方ないだろ」
「なに?ジケツって?」
「時間が無いんだ。大体、俺がバイトしながら勉強してることくらい知ってるだろ」
「苦学生ねぇ」
「ありさ、よくそんな言葉知ってるな」
「ああ~、バカにしたなっ」
「ああ、バカにしたよ。第一、お前バカじゃん」
「うう……」
「まあ、バカにバカって言うほどバカなことはないな」
「何よ何よっ、それが彼女に向かって言う台詞!?」
「誰がカノジョだって?」
「私よ、わ・た・し!」
「悪いがお嬢さん、俺は忙しいんでね」
「ふ~んっだ。ぐれてやるっ!」
「出来もしないくせに。それより、ありさ、来週、誕生日だろ?」
「覚えててくれたの?」
「そりゃ、去年誕生パーティしたし、嫌でも覚えるわ」
「今年は10代最後の誕生日。高級レストランで二人っきりのお食事を楽しみましょう」
「甘えた声を出しても無駄だぞ。金欠だって言ってるだろう」
「ええっ~!せっかくのイベントなのにぃ~!」
「毎日がイベントのありさのセリフとは思えん」
「確かに……」
「自分で納得すんなっ!」
「それで、何かくれるの?」
「まあ、当日のお楽しみにしておこうか。だけど、あまり期待はするなよ。金無いし」
「貧乏な彼氏を持ったのが運のツキかしら……」
「ひどいこというなあ。それじゃあ、他に金持ちでイケメンの男を探せばいいだろう」
「いいの?」
「なにが?」
「男漁りして」
「したいのか?」
「ううん。私は今のままでいい。三枚目でも優しい彼が目の前にいるから」
「面と向かってきついことをよく言うな。だが、三枚目ってのは解せんな」
「そう?まあ、大目に見れば二・五枚目かな」
「自分ではそんなに顔は悪くないつもりだけど……」
「そうね。でも、性格が間抜けだから」
「あ、ありさに言われたくないわ!」
「私は別に間抜けじゃないも~ん。こんなしっかり者の彼女が側にいるだけでも幸せに感じなきゃね~」
「この前、砂糖と間違えて料理に塩を入れたおおぼけはどこのどいつだ?」
「あ、あれは……急いでたしぃ。それに、ほら、お砂糖切らしてたじゃない」
「砂糖切らしたからって塩入れるかふつう~?」
「いいじゃ~ん、どうせあんまし変わんないし」
「どこがじゃ!おかげで俺は体調悪くしそうなしょっぱい醤油の煮物を食わされたんだぞ!」
「ごめん。それに、その件は時効になったはずよ」
「俺だって昔の話をほじくり返したりしたくはないけどさ、ありさが自分のことをしっかり者だなどとほざくから、仕方なく言ったまでだ」
「……」
「こ、恐い顔するなよ」
「ふん」
「怒ったのか?」
「別にぃ」
「だって、ほら。俺は事実を言ったまでで……」
「どうせ私はおっちょこちょいで、料理は下手で、お財布忘れて彼氏を携帯で呼ぶようなおおぼけですよ~だっ」
「財布のことなんか話してないだろ?」
「思い出したんだもん」
「そんなこと思い出さなくても……」
「もう、大っきらい!」
「おい、機嫌直せよ。俺が悪かった。謝るから」
「別に怒ってなんかない」
「言葉に怒気が込められているんですけど……」
「そう?」
「怒るなよ」
「触らないで……んん!」
「はは、キスしてごまかしちゃえ」
「はぁ」
「どう? 機嫌直った?」
「もう。ううん、もういいよ、そんなに怒ったわけじゃないし」
「で、誕生日、何か欲しいもの、あるか?」
「そばにいてくれるだけでいい」
「お、随分としおらしいな」
「だって、あんなことされたら……」
「言っておくが、今夜はダメだぞ。深夜のバイトがある」
「じゃあ、今は?」
「…………………………………………」
「どうしたの?」
「ありさって結構いい加減なんだな」
「別にいいじゃないのぉ。ね?」
「で、何して欲しいんだ?」
「分かってるくせにぃ。ねぇ、しようよ」
「こんな言葉、知ってるか?“女の方から誘うのは興醒めだ”」
「誰が言ったのよ、そんなこと」
「俺」
「ぶぅ……。そうは言っても、こっちの方は元気じゃない?」
「あ、こら、そんなとこ、触るな!」
「なによぅ、いっつもは触らせるくせに」
「……」
「……」
「……」
「ねぇ、起きてる?」
「ああ」
「ウォーターベッドって、気持ちいいね」
「ちょっと恐いなあ。破けやしないか?」
「だいじょうぶ!超丈夫だから、私が上で弾んでも、平気なの」
「結構、言動が激しくなってないか……?」
「そう?」
「そう」
「こんな私にしたのは、ど~このだ~れだ」
「俺」
「わかってるじゃん」
「はは、こりゃ、再教育は急務だな。だが、さしあたって俺はバイトに出掛けなくてはならんので、ここらで帰るとしよう」
「え~、もう?」
「三回もしたくせに何を言うか。まったく女は楽でいいな」
「女は男の精を吸収して生きるのだ」
「じゃあ、もうしない」
「ぶぅ」
「明日はもう来ないかも」
「ぶぅ」
「はは、嘘だよ」
「ねぇ、朝には帰ってくるんでしょ?」
「ん?ああ」
「朝ご飯、何がいい?」
「作れるのか?ちょっと心配だが……味噌汁に鰹出汁じゃなくて、醤油出汁使うんじゃあないだろうな」
「それじゃ、味噌汁じゃなくて、醤油汁じゃない」
「まあ、何でもいいや。失敗作じゃなければ」
「うん、がんばるぅ」
「がんばることはいいことだ。それが無駄な努力に終わってもな」
「終わんないもん」
「どうだか」
「ぶぅ、ひっど~い」
「す~ぐブ~たれるやっちゃな~」
「ん」
「何?」
「いってらっしゃいのキス」
「新婚さんじゃないんだから」
「いいじゃないのよぅ。ん~」
(チュッ)
「いってらっしゃい」
「いってきます」
「車に気をつけてね」
「はは、大丈夫だよ。なんだか、ますます新婚さんみたいだな」
「そうね」
(この子をお嫁さんにしたら毎日楽しいだろうなぁ……)
「何か言った?」
「い~や、なんにも」
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