姑の罵声
何が不便かと言えば、何もかもとにかく狭かった
運転が下手な わたしにとって狭い路地は特に怖かったが
自宅の駐車場はそんな狭い行き止まりの道の先に旦那が
崖を崩して作っており、
道の脇に軽四の車体が半分掛かる程度しか面積はなく
反転しようとするとどちらかの車輪は道路の外にはみ出すようにしなければ切り返せない、だから今でも怖い。
あの日、彼と別れて急いで帰ったものの、丘の下の駐車場で
焦るあまり崖に車をぶつけてしまってバンパーが歪んだ。
頭上の自宅から姑の罵声がひびく中、買い物を自宅まで、とにかく運んだ。
旦那手作りの、海岸から拾ってきた石を積み重ねただけの曲がりくねった小路を
手荷物を抱え雨の日も風の日も懸命に運んだ。
丸石は、ちょっとのはずみで滑る。 精神が擦り切れかけていた。
どんなに遅く帰ろうが、病気だろうが
姑は一度として家事仕事を代ってはくれなかった
それどころか、慣れない仕事に失敗でもしようものなら旦那と一緒になって罵声を浴びせてきた。
今日も、帰ってきた旦那に姑が告げ口し、いきなり頬を殴られた。
姑が育てた息子は、言動が姑そっくりだった。
違う点は、すぐ手が出ること。
酒を浴びるほど飲むこと。
都合が悪くなると逃げること。
この先何年、この家で耐える生活を続けることになるんだろうと思うと
涙が出てきて止まらなかった。
ひたすら、木立の中で彼から受けたやさしさと、あの花束が身に染みた・・・。
いつまでも起きてグチグチ文句を言っては叩かれた。
深夜になり、彼からのワンギリが入ると怒りは頂点に達した。
結局朝まで寝ないで過ごし、わたしは朝食も摂らずに出勤した。
けど、決して横になることが出来なくて辛かったんじゃない。叩かれたのが痛かったんじゃない。
彼の電話を嬉しい気持ちで聞けなかったのが情けなかったし辛かった。
その日、運転席に初めてメモを置いた。
”もう止めてください”
彼ならきっとこの文面でわかってくれると思ったが、勘違いされ嫌われはしないかと、それが怖かった。
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