まりあ 19番ホール 第3話 Shyrock作
家を出てからちょうど1時間掛かったことになる。
平日と言うこともあって客も少なく閑散としているように思われたが、ゴルフ場は意外なほど賑わっていた。
時間から考えて、早朝から訪れてすでにラウンドを終えた人たちと、これからプレイを楽しむ人たちが混在しているように思われた。
賑わうフロント附近の様子を見ていた車本とまりあの元へ、1組のカップルが現れた。
「やあ!車本、久しぶりだな~!」
「車本さん、ごぶさたしています!」
おそらくこの二人が今日いっしょにプレイをする車本の友達夫婦なのだろう。
男性は長身で眼鏡をかけており、女性は小柄で愛くるしい雰囲気がした。
「お~、望月、元気だったか?」
「うん、変わりないよ。それはそうと横におられる麗人、早く紹介してくれよ!」
「ははははは~!お前相変わらず目敏いな~!紹介するよ、この方が我がゴルフスクール優等生の阿部さんです」
「まあ、そんな……」
まりあははにかみながら挨拶をした。
「はじめまして、阿部まりあと申します。全然優等生なんかじゃないですよ。今日はよろしくお願いします」
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まりあ 19番ホール 第2話 Shyrock作
8時30分に車本がクルマで家の近所まで来て、まりあを拾ってくれることになっている。
静雄は毎朝7時に出勤するので、支度には十分余裕があった。
多忙な夫を前にしてゴルフに行くことを切り出しにくいまりあであったが、昨晩思い切って静雄に「明日友達とゴルフに行こうと思うんだけど」とやや遠慮気味に伝えたところ、意外にも静雄は「ゆっくり楽しんでおいで。まりあが上手くなったらいっしょに周ろうよ」と言ったので、まりあはほっと安堵の胸をなでおろしたのだった。
ゴルフバッグを担いだまりあは軽い足取りで、約束の場所へと向かった。
歩いて7分ほどの交差点だ。
いくらスポーツとは言っても近所の目というものがある。
見知らぬ男性が人妻であるまりあを迎えに来ている場面を、もしも目撃されたらつまらない噂になるかも知れない。
そう考えたまりあはあえて少し離れたところを約束の場所として選んだのだった。
既に交差点にはシルバーカラーのスカイラインが止まっていた。
きれいに洗車されたボディーが朝日を浴びてキラキラ輝いている。
「おはようございます」
「おはよう」
「だいぶ待たれましたか?」
「いや、今着いたばかりですよ。おっ、素敵なゴルフウェアですね」
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まりあ 19番ホール 第1話 Shyrock作
ボールは鮮やかな弧を描いて真っ直ぐにマークポイントまで飛んでいった。
「ナイスショット!」
フォロースルーの状態で弾道を見つめるまりあの後方から男性の声が飛んで来た。
まりあは振り返って、ニッコリと笑顔を返した。
「阿部さん、かなり上達しましたね」
「まあ、嬉しいですわ。先生にそういって貰えると」
阿部まりあ(27歳)は、2ヵ月前からゴルフ練習場に通い始めていた。
結婚して2年になるが、夫の静雄(34歳)が多忙で毎晩帰りが遅く、会話を交わす機会も少なくなっていた。
当然、夜の営みもかなり間隔が開き、たまにまりあの方から求めた時も「疲れてるんだ。眠らせてくれよ」と言って求めに応じないことも多くなっていた。
新婚2年目ともなれば、新妻も性の歓びを謳歌する頃なのに、夜の営みが遠ざかってしまうと、燃える身体を持て余しつい自らを慰めることもしばしばあった。
まりあはそんな日頃の鬱積を晴らすためにゴルフを始めたのだった。
スポーツジムに通うことも考えたが、室内ではなく太陽の下で気分を発散したいと思った。
まもなく友人の紹介もあって、市内のゴルフ練習場に通うことになった。
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隠居 (えんきょ) と豊里屋 左官屋の静かなる睨みあい 知佳作
豊里屋が所有する土地の全ては燐家 左官屋がかつて所有していた土地でした。 左官屋はその名の通り主な仕事は入谷村の外にあり極めて富裕でした。
隠居 (えんきょ) も閉鎖的な入谷村にあってその稼ぎを当てにしていたひとりでした。 中組 (なかぐん) は長の紙屋 (かみや) ではなく左官屋の威厳が行き渡り他からの侵入を防いでいた傾向がありました。 豊里屋は夜逃げしてここに辿り着き、物乞いと見せかけあっという間にその何もかもを恩義ある筈の左官屋から奪ったんです。
これに飽き足らず下組 (しもぐん) の下手 (しもて) の田も全て奪い取り長嶋益一さんマスヱさん夫婦を自分たちと同じ目に合わせました。 だから隠居 (えんきょ) も警戒心を怠らなかったんです。
左官屋に嫁いだ梅乃さんはかつては実家が喰うに困り旅館に下働きに出していました。 旅館が梅乃さんを買い受けた理由はもちろん客が望むなら夜伽をさせるためです。
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ありさ 割れしのぶ 第十二章 貝紅(最終章) Shyrock作
ちょうどその頃、浜の方では誰かが沖に向かって大声で呼んでいた。 だが、その声は潮騒で打ち消され、俊介たちに届くことはなかった。 浜辺に立って叫んでいたのは、俊介の伯父と駐在であった。 そしてその横には、屋形の女将と男衆の北山の姿もあった。 北山は喉が張り裂けんばかりに大声で叫んでいた。 「ありさはん!俊介はん!早まったらあかんで~!!はよう、こっちへ戻って来んかい!女将はんがなあ、あんたらの恋を許すてゆ~てはるんやで~!丸岩はんもありさはんの心意気には負けたゆ~たはるんやで~!せやから、死んだらあかんのや~~!!死んだらあかんでぇ~~~!!」 しかしいくら有りっ丈の声で呼んでみても、ありさたちには届かなかった。 「これはぁダメだ。 うらぁぁはすぐに、漁師に舟をぉ頼んでくるわ! 」 浜から呼んでも無駄であると判断した駐在は、慌てて網元の元へ走って行った。 ◇
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