締め込みを見る限りこの村では如何にも女が足りず男どもは不自由を強いられているようにみえました。 ですがよくよく考えてみればこの時代、男の力無しでは厳しい冬は越せなかったのです。 入谷部落でこの季節になんとか暮らし向きが立ったのは本家と呼ばれる下組 (しもぐん) の中 (なか) 、中組 (なかぐん) の紙屋 (かみや) 、それに上組 (かみぐん) の原釜 (はらがま) という門名 (かどな) の3家族のみでした。
一家族が暮らすための米や野菜は田畑さえ持っていればなんとか自給自足で間に合うものの肉・魚、それに着るものや酒などの贅沢品 (そう呼ばれているもの) は炭焼き程度 (現在の付加価値に換算し年に100万未満の稼ぎ) では賄えなかったからです。
原釜 (はらがま) の寛治さんがどうしてあれほど女を転がすことが出来たかと言うと、とりもなおさずそれは賂いのおかげでした。 原釜 (はらがま) は当時の人が忌み嫌う守銭奴、つまり高利貸しを例えば入谷村の人々相手でも行って財を成していたからでした。
夏場はともかく、冬の足音が聞こえてくると入谷村では女どもは気色ばんで寛治さんの後を追うんです。 それはまたこの入谷渓谷の秩序の乱れを産む元となりました。
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