知佳の美貌録「先陣を競う男たち」
久美が地下室への階段を下りてボイラーマンのもとに通い始める噂を聞くと、真っ先に支配人がこれを阻んだ。
最初の頃こそ、なんやかやと業務を言いつけ事務所のあるフロアーから移動できないようにした。
それが叶わないとみるや、フロントマンたちを使ってゆく手を阻ませた。
それでも久美の意志が固く、いよいよ払いのけてでも行こうとすると、支配人八幡はボイラーマンの篠原に向かって解雇通告を突き付けた。
「必要と思われる時間帯に職場から消えている」
町議として、必要不可欠な呼び出しに、勤務時間中で悪いと知りながら、やむにやまれず応じてしまったことを逆手に取った解雇通告だった。
ボイラーマンは臨職であり、出勤日時に特段の制約はない。
百も承知しながらも、恋敵の存在が目障りで、つい、冷徹な言葉が口をついて出た。
雇い入れは支配人の独断で行うことが出来た。
それを逆手にとって、ライバルである篠原に解雇通告を行った。
久美が黙っていなかった。
元々ホテルが開業できている理由は、ひとえに久美の伝票操作にある。
つまり、支配人は名目上置いているだけで、実質支配しているのは久美だった。
不具合が生じた場所の修理に工事人を呼びつけるのも、彼らに支払いの約束を取り付けるのも、全て久美が担った。
久美が支配人を解雇するといえば、それでホテルは即日倒産し解散となる。
久美は篠原が解雇されたと知ると支配人の八幡に向かってこう言い放った。
「支配人に甘えてばかりいてごめんなさい。これから通勤は、自分で何とか考えます」
懸命に引き留める支配人を振り切って、久美はその日はバスで帰った。
バスの都合が、どうしてもつかないときは篠原を呼び寄せた。
ホテルの脇の、少し坂道を下ったような場所がボイラー室の入り口で、その隣がバスのUターン場所だった。
そのUターン場所に篠原の車を呼び寄せた。
解雇にしたはずのボイラーマンが久美の送迎をする妙な光景が続いた。
そんなある日、篠原は別の町議の男とホテルを訪問する。
町議としての最後通告である。
貸し出していた資金の調達が出来なかった場合、責任者である支配人の資産も、ひとりの責任者として経営者共々差し押さえるというものだった。
破綻後に建て直す青図面まで渡され、期日を迫られた。
支配人の考えが甘かった。
久美を奪われまいと、男としての本性を現したばかりに、逆に首根っこを押さえられてしまうことになる。
ホテルの敷地内でこそ、支配人が上位にあっても、いったんその場所を離れると相手は年上の、地区選で選ばれた議員であり、所属する役場は銀行越しにすべてを支配している。
ほどなくして篠原は、再びボイラーマンとして復活し、正々堂々久美の送り迎えをすることになる。
帰ってきてくれた篠原に久美は喜んだ。
立場を確立した篠原は、徐々に久美の心と身体を解きほぐしていった。
この頃から会話に費やされる時間のほぼすべてが、お互いの身体の貪り合いになる。
だが、そこは町議。
ボイラー室では肝心な男女関係には決して至ってくれなかった。
階段室からは見えない場所にソファーを移動させ、絶妙のタイミングで肝心な場所を押し開いて舌や指を使って愛してくれても、そこから先には決して進んでくれない。
久美は焦るあまり、下着を身に着けず、階段を下りていくようになる。
人の降りてくる気配がして見上げると、下腹部がそれとなく見えるような格好で地下に通うようになる。
〈 こんなことをさせておいては支配人に見つかってしまう 〉
既にお互いのその部分は十分に確認し合っていた。
いつ重ね合わせるか、そこは篠原次第だった。
連日迫られた。
それでなくても篠原は、町議としての多忙さと収入のなさに妻に見放され、独り身のような生活を強いられていた。
つまり、名誉と財産目当てに嫁いだ妻に三下り半を突き付けられていた。
40代の男盛り、溜まりきって女を相手に吐き出したくて夜も昼もなく悩んでいた。
見下したはずの支配人と、相も変わらず部屋に閉じこもって書類整理に追われる久美。
通いのバスの運転手が持ち込んでくるハーレーの後部座席に乗って意気揚々とドライブを楽しむ久美。
何時奪われてもおかしくないような状況が連日、目の前で繰り広げられていた。
〈 他の男に渡してなるものか! 〉
意を決した篠原は、送迎途上 思い立ったようにわき道にそれ、どんどん藪の中に分け入り、人も通わぬ
森林公園に久美を誘い込んだ。
そこは樹海の中に木製の柵が連なるだけの閉鎖的な場所。
車が止まり、降ろされた場所は行き止まりになっていた。
「ここならだれにも邪魔されないで話が訊ける」
そういわれて誘われた。
やや高台に向かおうと手を引かれた。
車から降ろされた久美は、いざとなったら逃げようと心に決めていた。
高台に辿り着き、
屋外でボイラー室の時と同様のことを迫った篠原を久美は突き飛ばし、その中を逃げ惑った。
彼の意図が分からなかった。
逃げる間に下着は引きちぎられ、スカートの中でその薄い布が揺れ、端からヒラヒラのぞいていた。
逃げては追いつかれ、突き飛ばしては逃げた。
幾度も腰に手を回され、胸元を襲われた。
押し付けられる篠原の下腹部の感触に、この日ばかりは畏怖した。
恋する男を受け入れてもよいという考えは、いつしか消えていた。
それはまるで野獣が情交を繰り返したくて発情したメスを追い回す風に思えた。
逃げ惑う久美を追い詰めた篠原は、恐怖で棒立ちになった久美の下腹部を、勇者として襲った。
山を逃げ惑った疲れと恐怖から身動きできなくなった久美。
相手のなすがままだった。
ここなら支配人の目が届かない。
篠原は力ずくで久美の太腿を割り、己の鼻面を彼女の泉に押し付け啜った。
股間の漲りを我の手で確認するとズボンをずり下げ、屹立を引き出し、ゆっくり嬲りきって湧き出る泉に押し当てた。
抵抗があった。
芯部にあてがおうとして何度も振り払われた。
そうされることが篠原の興奮度を更に増すことになった。
暖かい感触が屹立を瞬間捉え、直後に振り払われる。
その都度、久美を腕の中から逃さないよう、ますます力を込め押さえつけた。
篠原は、事ここに至る計画を実行するため、何度も下見を繰り返していた。
にもかかわらず、いざ実行となった時、篠原はゴムをつけるゆとりを失っていた。
振り払われる屹立にゴムを装着していなかった。
過去のペッティングを思うとき、今日は危険日であることを理解していたつもりだった。
ポケットには確かにゴムを忍ばせてはいた。
ところが、うまく誘ったと思ったのに初手から久美は逃げ出した。
屹立にゴムをかぶせるゆとりをなくしていた。
そればかりか、久美を野獣に立ち返って襲ったことで、押さえ込み得た肉と肉が重なり合う感触に、屹立がたまりかねていた。
「もう少し辛抱するんだ」
心にもない言葉が篠原の口をついて出た。
その言葉で久美は観念した。
思えば久美からこの状況へと誘ったも同然だった。
ここまで来てしまった以上、引き返せない状態にふたりはなりつつあった。
求めあったふたりの、肝心な部分の温もりが時間とともに実感されるようになる。
ついに久美の動きが止まった。
篠原から受ける愛情という温かみに、身動きできなくなっていた。
苦し気な篠原の表情と、下腹部から別の生き物のように突き出した屹立。
その先端は、久美を欲しくて充血しきり小刻みに震え、濡れ光っていた。
誘導されるがままに久美は男に背を向け、尻を突き出し、秘部をツンと上に向かせ、男の目の前に濡れ始めたソレを掲げた。
着衣のまま柵にしがみつき男のために下腹部を掲げる久美に、勝ち誇った篠原は、その湿った手で引き裂いた下着を慎重に分け入り、後ろからゆっくりと花芯を割って屹立を埋め込んでいった。
久美にとって、
初めての不倫が
屋外、しかも
襲われるという刺激的な状況下で行われようとしていた。