埼松家の風呂場で原釜 (はらがま) の足羽寛治さんが借金のカタと称し埼松昭義さんの妻 美代子さんを襲ってご主人の目の前でハメたという噂はあっという間に入谷村じゅうに広まりました。
しかも襲った理由たるや里ならともかく農村部で忌み嫌われる飢えに苦しむ人たちに牛馬の餌のようなものを報謝と見せかけ返せないと知って押し付け質草にした高利貸しほんの利息分を頂いただけだというじゃありませんか。
これには流石に温厚な村人たちも黙っちゃいませんでした。 特に中組 (なかぐん) と下組 (しもぐん) の人々は元々上組 (かみぐん) のことを好ましく思っていなかったので、その元凶である原釜 (はらがま) を村八分のように扱い始めたんです。
入谷村で起こるごくごく普通のことなら我関せずを貫き通す上薬研 (かんやげん) の村迫金兵衛さんまでも借金のカタに
姦通と聞いて原釜 (はらがま) にはここに越してきたとき自分らも覚えがあったので烈火のごとく怒りだし村迫家の田んぼに隣接する土地がたまたま原釜 (はらがま) 家の所有地、つまり水利権で争っていたと言うこともあり上薬研 (かんやげん) の田んぼに出向く寛治さんの妻 美晴さんに例の鉞 (まさかり) を飛ばすが如くの剣幕で事あるごとに当たり散らすようになったんです。
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