ありさ 割れしのぶ 第十二章 貝紅(最終章) Shyrock作
ちょうどその頃、浜の方では誰かが沖に向かって大声で呼んでいた。 だが、その声は潮騒で打ち消され、俊介たちに届くことはなかった。 浜辺に立って叫んでいたのは、俊介の伯父と駐在であった。 そしてその横には、屋形の女将と男衆の北山の姿もあった。 北山は喉が張り裂けんばかりに大声で叫んでいた。 「ありさはん!俊介はん!早まったらあかんで~!!はよう、こっちへ戻って来んかい!女将はんがなあ、あんたらの恋を許すてゆ~てはるんやで~!丸岩はんもありさはんの心意気には負けたゆ~たはるんやで~!せやから、死んだらあかんのや~~!!死んだらあかんでぇ~~~!!」 しかしいくら有りっ丈の声で呼んでみても、ありさたちには届かなかった。 「これはぁダメだ。 うらぁぁはすぐに、漁師に舟をぉ頼んでくるわ! 」 浜から呼んでも無駄であると判断した駐在は、慌てて網元の元へ走って行った。 ◇
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ありさ 割れしのぶ 第十一章 最後の愛 Shyrock作
「俊介はん、ちょっと待って。この薬を飲む前に、もういっぺんだけうちを愛しておくれやすな・・・」 「・・・・・」 「水の中で抱合うて、ほんで、薬をいっしょに飲みまひょ・・・」 「うん・・・わかった・・・」 二人は手を繋ぎ、浜辺をゆっくりと沖合いに向って歩き始めた。 季節はもう夏だと言うのに、打ち寄せる波が氷のように冷たく感じられた。 「あ、痛・・・」 ありさは小石を踏んだのか、少しよろけて俊介にもたれ掛かった。 「だいじょうぶ?」 ありさをしっかりと受け止める俊介。 足首が水に浸かる。 一瞬立ち止まった二人だったが、また歩き始めた。 深い海に向かって。 膝まで浸かる深さで二人は立ち止まり、抱き合いくちづけを交した。 「ありさ、君を幸せにしてあげられなくてごめんね・・・」 「なに、ゆ~たはりますんや。うちは、俊介はんに巡り会うて幸せどすぇ・・・」 ふたりは頬を寄せ硬く抱き合う。 息も詰まるほどの濃密なくちづけ。 俊介は目を閉じて、ありさのふくよかな胸の膨らみをてのひらで味わった。 そしてその感触を永遠の記憶の中に刻み込んだ。 死出の旅・・・いや、そうではない、あの世でともに暮らすのだ。 ありさは心にそう誓った。
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ありさ 割れしのぶ 第十章 越前の浜辺 Shyrock作
ありさと俊介が駆け落ちをしてから1ヶ月の時が流れた。 越前海岸で料理旅館を営む伯父の一平宅に身を寄せた俊介とありさは、伯父の世話に甘んじることを極力避け、二人して一生懸命働いた。 俊介は海産物の卸問屋に勤め、ありさは伯父の旅館を女中奉公して汗を流した。 そんな折り、街の駐在がやって来て伯父の一平に尋ねた。 「本村さん、元気でやってるんかぁ。 おめぇの甥の本村俊介さんちゅ~のはぁ、こっちゃに来てぇましぇんか? もしも、来てぇもたら教えてんで 」 「やあ、駐在さん、ご苦労さんですってぇ。 う~ん、俊介けぇ? 久しく会ってねぇ~ね」 「いやあ、それならいいんほやけどぉね」 「俊介が何ぁんぁしでかしたんやってかぁ? 」 「いやいや、何でもぉ京都で、舞妓ぉを連れて逃げてるそうで。もほやけどぉおて、こっちゃをぉ頼って来てぇねぇ~かと」 「え!?俊介のやつ、ほんなもぉんことをぉ!? もしも来てぇもたら、あんなぁぁに連絡するんから」 「頼むでぇね」 二人の会話を柱の陰で立ち聞きしていたありさは、遠く離れた福井にまで捜査の手が及んでいることを知り愕然とした。 (あぁ、もう、あかんわ・・・、どこに行っても、あの執念深い丸岩はんは追っ掛けてきはるわ・・・もうあかんわ・・・)
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ありさ 割れしのぶ 第九章 逃避行 Shyrock作
「お~い!待たんかえ~!そこの学生っ!舞妓と駆け落ちしたらどんな目に遭うか分かってるんかあ~!」 2人の男が血相を変えてありさ達の方へ向かって来た。 「あっ!あれは丸岩の下にいつもいたはる人達やわ!えらいこっちゃ、捕まったら終わりやわ!」 ありさは恐れ慄き俊介にしがみついた。 追っ手はたちまちデッキまで辿り着き、ありさを匿おうとする俊介に詰め寄った。 「おい!ありさを返さんかえ!ありさは屋形の大事な財産なんや。おまけに丸岩はんが高い金払ろてくれて水揚げまでした身や。お前の好きなようにでけると思てんのんか!あほんだらが~!さあ、早よ返さんかい!」 男たちはそう言いながら、俊介を押し退け、ありさの手を引っ張ろうとした。 ありさはもう片方の細い腕でデッキの取っ手を握って必死に耐えている。 「いやや~~~っ!」 「やめろっ!ありさが嫌だって言ってるじゃないか!」 俊介はそういって、男の胸座を無我夢中で押した。 不意を突かれた男はホームに尻餅をついて転げてしまった。 「あ、いた~っ!な、何しやがんねん!」 入れ替りもうひとりの男が俊介に襲い掛かったが、間一髪、発車の直前で俊介はすがりつく男を脚で蹴り飛ばしてしまった。
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ありさ 割れしのぶ 第六章 籠の鳥 Shyrock作
それから2日後、その日は風もなくとても蒸し暑い日だった。 ありさは三味線の稽古を済ませ、手ぬぐいで額の汗を押さえながら、屋形“織田錦”に戻って来た。 「ただいまどすぅ~」 いつもならば、女将か他の者から「お帰り~」の言葉が飛んでくるのに、今日に限ってやけに静かだ。 ありさは訝しく思いながら下駄を脱ごうとすると、暖簾を潜って女将が現れた。 どうも様子が変だ。 女将が目を吊り上げてありさを睨んでいるではないか。 「ありさはん!早よあがってそこにお掛けやすな!」 「はぁ・・・」 ありさは脱いだ下駄を並べ終えると、玄関を上がって板の間に正座した。 「ありさはん、あんさん、あたしを舐めてるんちゃいますんか!?」 「ええ!?そんなことおへん!お母はんを舐めてるやなんて、そんなこと絶対あらしまへん!」 「ほな、聞きますけどなぁ、あんさんの旦那はんてどなたどす?」 「はぁ、あのぅ・・・丸岩の会長はんどす・・・」 「そうどすな?丸岩の会長はんどすわな?ほなら、もひとつ聞くけど、あんさん、学生はんと付合うてるんちゃいますんか?」 ありさは女将から学生と言う言葉を聞いた瞬間、身体中から血が引くような思いがした。
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