ありさ 割れしのぶ 第二章 祇園 Shyrock作
今宵始まる生々しい褥絵巻こそが、自分に与えられた宿命であると諦めざるを得なかった。 祇園界隈に入ると花街らしく人通りも多く、いずこかのお茶屋からは三味の音が聞こえて流れて来た。 ありさは辻を曲がって路地の一番奥のお茶屋の暖簾をくぐった。 「おはようさんどすぅ~、屋形“織田錦”のありさどすぅ~、遅うなってしもぉてすんまへんどすなぁ~」 「あぁ、ありさはん、雨やのにご苦労はんどすなぁ~」 ありさに気安く声を掛けたのは、お茶屋“朝霧”の女将おみよであった。 「ありさはん、おこぼどないしたん~?鼻緒が切れてしもたんか?」 「そうどすんや。ここへ来る途中でブッツリと切れてしもて」 「あ、そうかいな。そらぁ、歩きにくかったやろ~?ありさはんがお座敷出てる間に、あとでうちの男衆にゆ~て直さしとくわ、心配せんでええでぇ~」 「おかあはん、お~きに~。よろしゅうに~」 「ありさはん、それはそうと、大阪丸岩物産の社長はん、もう早ようから来て待ったはるえ~。今晩は 待ちに待ったあんさんの水揚げやし、社長はんもえらい意気込んだはるみたいやわぁ~」 「・・・」 「どしたん?あんまり嬉しそうやないなぁ?」 「はぁ」
テーマ : 官能小説・エロノベル
ジャンル : アダルト
ありさ 割れしのぶ 第一章 運命の出会い Shyrock作
昭和初期。小雨がそぼ降るうっとうしい梅雨の日暮れ時、ここは京都木屋町。 高瀬川を渡って祇園に向うひとりの舞妓の姿があった。 すらりとしたいでたちで目鼻立ちの整ったたいそう美しい舞妓で、その名を〝ありさ〟と言った。 衣装は舞妓らしく実に華やかなもので、上品な薄紫の着物には一幅の名画を思わせる錦繍が施してあった。豊かな黒髪は〝割れしのぶ〟に結い上げられ、菖蒲の花かんざしが彩りを添えていた。 歳は十九で舞妓としては今年が最後。年明けの成人を迎えれば、舞妓が芸妓になる儀式「襟替え」が待っている。襟替えが終われば新米ではあっても立派な芸妓である。 そんなありさに、早くも「水揚げ」(舞妓が初めての旦那を持つ儀式)の声が掛かった。 稽古に明け暮れている時期はお座敷に上がることもなかったが、踊りや三味も上達して来ると、やがて先輩の芸妓衆に混じって何度かお座敷を勤めることとなった。 そんな矢先、ある財界大物の目に止まり、声掛かりとなった訳である。 だが、ありさは「水揚げ」が嫌だった。好きでもない人にむりやり添わされることなどとても耐えられないと思った。しかし芸妓や舞妓はいつかは旦那を持つのが慣わしだし、それがお世話になっているお茶屋や屋形への恩返しでもある。
テーマ : 官能小説・エロノベル
ジャンル : アダルト