ありさ 割れしのぶ 第八章 一通の手紙 Shyrock作
6月下旬、いよいよ夏到来を思わせる暑い夜、ありさは男衆をひとり伴ってお茶屋に向った。 俊介の屋形訪問の一件以降、女将は警戒を深め、ありさの行く先々に常に男衆をそばに付けることにしていた。 万が一、またまた沮喪があれば、上得意の丸岩に申し訳が立たないと思ったのだ。 しかし幸いなことに、同伴の男衆はありさが最も好感を持っている北山春彦と言う30代半ばぐらいの男であった。 ありさは北山に気軽に話し掛けた。 「暑なりましたなぁ~」 「ほんまどすなぁ、そうゆ~たら、ぼちぼち祇園さんどすなぁ~」 「ほやね~、また忙しなりますなぁ~」 「ありさはん・・・」 「はぁ、何どす?」 「あんまり思い詰めんようにせなあきまへんで。身体に毒おすえ」 「あ、北山はん、おおきに~、うちのことそないに気にしてくれはって・・・」 「ありさはん、近頃、ちょっと痩せはったみたいやし・・・」 「うん、そやねぇ、ちょっと痩せたかもしれへんなぁ」 「もし、わてにできることあったら何でもゆ~てや。微力やけど力になれるかも知れへんし」 「おおきに~、そないにゆ~てくれはるだけでも元気が出て来るわ。嬉しおすぅ~」 ありさの口元から久しぶりに白い歯がこぼれた。
テーマ : 官能小説・エロノベル
ジャンル : アダルト
知佳の美貌禄「女衒の家に生まれ」
年端もいかぬ女の子が一心不乱に市街地を駆け抜けていく。
小さなその手に文を持たされ脇目も振らず遥か彼方の海の方角を目指し駆け去った。
時は明治。
生家はこの物語の主人公 久美が母から伝え聞いた、その母の記憶にある限り
女衒 (一般的には貧農が娘を質草として女郎を商う置屋、又は揚屋”あげや”ともいう に売る。このこの仲立ちをする男衆のことを言う) を生業 (なりわい) としていた。 という
母の父親である男 (以下 女衒という) は政府非公認の岡場所のあるこの地で髪結いという表向きもっともらしい看板を掲げてはいたが、裏に回ればそも置屋に生娘を世話する売春のための人買いであり皮剝ぎなどを主な生業にし忌み嫌われていた穢多(えた)だった。
穢多(えた)は非人の次に身分が低い。
人も避けて通る河原乞食が何故と思うかもしれないが、需要が無くなった皮剝ぎ様の商売をやめ主人公久美の母が物心ついた時には髪結いの表看板を掲げており食うに困る乞食・・・風には思えなかった。 という
地方で知らぬものとてない潤沢な資金 (女衒と金貸し) に支えられ知名度も高い家柄のように思えたという。 が、久美にこう語る母は今に至っても何故家柄が穢多 (えた) なのかわからないという。
どう卑屈に見ても大陸系でも皮剝ぎでもなく食うに困る河原乞食でもなかったからである。
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