あの腋に茂みのある女が目の前に
「こんなことをするなんて」女店主は憤った。琢磨は女店主を最初に目にした丘の向こうの出来事を白状した。「あなた、私たちが丘の中腹でしてたこと見てたのね」「はい、悪いとは思ってたんですが・・・」貴女のことが忘れられなくてと告げた。ご主人にも悪いことをしているんだと。「あの人、死んだわ」 それは知らなかった。山を下りてから今日まで、夢中で探し回りやっと彼女を見つけ店を見張り続け、ご主人が出入りしない時をねらって忍び込んだと告げた。遠方から双眼鏡越しに見ていただけだが、実際、目の前の生身の彼女には腋の茂み以外にも濡れた瞳や厚みのある唇など生きている人間の美しさがある。その女が手首を引いただけで懐に倒れ込んでくれ、臭いも嗅がせてくれたことで執着心は否応もなく高まった。この女を味わえるならと、商品も買わず毎日通うなど何事でもなかった。「残念だったわね、今度は農夫の代わりにあなたが寝取るつもりだったの?」女店主の声にはわずかな自嘲があった。「どうしてあんな真似を?」「もうやめて!昔のことなんか」琢磨の質問を女店主は激しく遮った。何か仔細があるらしいが女店主の背中からこれ以上は聞けない空気が漂った。彼女は冷めた様子で横座りし、お茶でぬれた足袋のコハゼを外しながら淋しげに笑ってこう応えた。「残念だったわね。そんなことなら間に合ってます。気が済んだらお帰りなさい」そういわれても琢磨の胸中はいまだ冷めやらない。それどころか同じ狭い空間で心が瞬時とはいえ通じた興奮が種火のように燻ぶり続けている。いかに年上とはいえ、女に言われたぐらいで素直に帰る気にはなれなく、唇をかんでうつむいた。すると、目と鼻の先に足袋を脱いだ女のなまめかしい素足があることに気が付いた。肌が透けて血管の一本一本が浮き出て見えるような、それでいて指が長く、窮屈な靴など滅多に履かないのか形もいい。爪の根元はピンク色に色づいてとても健康的だった。雨に濡れた琢磨の足も同じように濡れている。 つい、片足を伸ばして伸ばした親指と人差し指の間で彼女のつま先を掴んでみた。ねっとりと湿って冷たい感触がした。「・・・アッ」女店主は咄嗟に足を引っ込めようとして体制を崩した。片手を畳についた拍子に掻き合わせただけの着物が肩からずり落ちた。慌てて胸元を押さえ切れ長な目を細め琢磨を睨んだ。不埒な行動を叱責されると思ったが-- 「そんなっ・・・ ダメ ねぇ・・・」隙のある甘えた態度で「ねぇ、もう、お帰りなさい。お願い。」言葉とは裏腹に彼女は舐られた足の指を逆に琢磨の足の裏に擦り付けながら意思を伝えてくる。誘われている。年上の女の手練手管に琢磨は猛然と欲望がこみ上げてきた。相手の一次の戯言に男子の本懐を中途で投げ出すべきではないとやっと悟った。咄嗟に彼女を抱き寄せた。「拒まれたって帰るもんか」琢磨は狂おしげに口走った。彼女の着物の襟もとを開くと首筋や肩に唇を這わせてゆく。その汗ばんだ肌の甘い香りに思わずむせてしまいそうだった。「アアアッ、ごめんなさい、本当はこうなりたくて・・・」彼女も身を震わせながら琢磨にしがみついてきた。 続く
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