官能舞妓物語
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「お~い!待たんかえ~!そこの学生っ!舞妓と駆け落ちしたらどんな目に遭うか分かってるんかあ~!」
2人の男が血相を変えてありさ達の方へ向かって来た。
「あっ!あれは丸岩の下にいつもいたはる人達やわ!えらいこっちゃ、捕まったら終わりやわ!」
ありさは恐れ慄き俊介にしがみついた。
追っ手はたちまちデッキまで辿り着き、ありさを匿おうとする俊介に詰め寄った。
「おい!ありさを返さんかえ!ありさは屋形の大事な財産なんや。おまけに丸岩はんが高い金払ろてくれて水揚げまでした身や。お前の好きなようにでけると思てんのんか!あほんだらが~!さあ、早よ返さんかい!」
男たちはそう言いながら、俊介を押し退け、ありさの手を引っ張ろうとした。
ありさはもう片方の細い腕でデッキの取っ手を握って必死に耐えている。
「いやや~~~っ!」
「やめろっ!ありさが嫌だって言ってるじゃないか!」
俊介はそういって、男の胸座を無我夢中で押した。
不意を突かれた男はホームに尻餅をついて転げてしまった。
「あ、いた~っ!な、何しやがんねん!」
入れ替りもうひとりの男が俊介に襲い掛かったが、間一髪、発車の直前で俊介はすがりつく男を脚で蹴り飛ばしてしまった。
(ピ~~~~~ッ!ガッタンゴットンガッタンゴットン・・・)
汽笛が駅構内に鳴り響き、ついに汽車が発車した。
「こらあ~!待たんかあ~~~!」
男たちは懸命に追い掛けたが、汽車の加速に敵うはずもなかった。
一体何事が起きたのかと、車内にいた乗客の目は一斉にありさ達に注がれた。
「皆さん、お騒がせして申し訳ありませんでした」
俊介は角帽を脱いで、乗客達に深々と頭を下げた。
俊介の冷静で潔い態度に乗客達にも安堵の表情が浮かんでいた。
4人掛けのボックス席に隣り合って座ったありさと俊介はホッとため息をついた。
「俊介はん、うちを守ってくれはっておおきに~。怪我はおへんどしたか?」
「君を守るのは当然のことだよ。怪我はだいじょうぶだよ」
「今頃聞くのん、変やけど・・・この汽車でどこへ行くんどすか?」
「あ、そうだった。ごめん。君に行き先を言ってなかったね。実は僕の伯父が福井県に住んでいるので、取りあえずそちらに一旦身を置こうと思ってるんだ」
「そうどすか。あのぅ・・・、うちもしっかりと働くさかいに心配せんといておくれやすなぁ~」
「食べるくらいは何とかなるから心配しなくていいよ」
「そうどすか。おおきにぃ~」
「あ、そうだ。君にあげたいものがあったんだ」
「え?」
俊介は鞄から丁寧に包装された小箱を取り出した。
「これ、君にあげるよ」
「うちにくれはるんどすか?何どすのん?これ・・・」
「うん、以前、四条河原町の小間物屋で貝紅を眺めていたことがあったろう?君にあげたくて買っておいたんだ」
「ほんまどすかぁ?やぁ、嬉しおすわぁ~。今、開けてもよろしおすかぁ?」
「もちろんだよ。気に入ってくれたらいいんだけど」
ありさは好きになった男性から贈り物を貰うのは初めてのことであった。
ありさは満面に笑みを浮かべながら、ゆっくりと包装を解いた。
小箱の中から現れたのはとても色鮮やかな貝紅であった。
「やぁ、きれいやわぁ~、俊介はん、おおきに~、うち、ほんまに嬉しおすぅ・・・。大事に大事に使わせてもらいますよってに」
俊介はありさが大喜びする顔を見て、駆け落ちしたことが決して間違いではなかったと思った。
愛と官能の美学
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