美月ちゃんが 「ウチなら空いてる」 と言ってくれた言葉にその時の千里さんは一緒に暮らせることを喜ぶどころか顔を曇らせ 「司さんにお泊り頂くようなお部屋はあいにくですが・・」 と断りを入れて来たんです。 母娘がふたりっきりで暮らす家に得体に知れない男が紛れ込むばつの悪さに、その件は諦め無理を承知でこのままもう少し一緒にいたいと申し出たんですが、それすらも用事があるからと断られたんです。
しかし別れ際になって思い返すように連絡先を問うて来たので電話番号をメモ書きにして渡し、千里さんからの連絡が入るのを待つことにしました。
別れた場所が喫茶のすぐそばでしたので、ご迷惑をかけたついでに何処か泊まるところはないか聞いてみようとこっそり店内に引き返し声を掛けました。 すると 「そうですねえ~、お客様のような方なら」 近くの旅館ではなくホテルがいいんじゃないでしょうかと、こう言われたんです。 「それはどの辺りでしょう」 と聞き返すと 「お客様がもし列車でお越しになられたんなら、その駅前通りにあります」 と親切に街の観光用地図を添え教えてくれました。
「タクシーをお使いになれば基本料金にほんの少し足すだけです」 とも 「そこの朝食はバイキング方式になっています」 とも教えてくれたんです。 不可解なのは、つい今しがた女性との仲を取り持ってくれたはずなのに、もう彼女と距離を置けとでも言わんばかりに堀川から追いやられたんです。
それを宮内司は (それはそうだろうなあ、なにせ当の千里さんでさえひとつ屋根の下で暮らすのを警戒したほどだから) と、彼女に傷がつかないよう距離を置くようにと忠告・応援してくれたとらえたんです。 言い換えれば良い方に解釈してしまったのです。
流石に喫茶店の店員が案内してくれたホテルは部屋も浴室やトイレまでも思ってた以上にきれいで、その上モーニング・バイキングも随分品数があって味付けも良く最高でした。 千里さん母娘には悪いんですが誰に遠慮することなく手足を伸ばし眠れることと、お金を払う以上遠慮する必要のない点だけはベストでした。
その反面、ここは彼女の住む地区とは別の、ある意味で開発されすぎていて千里さんの住む地区のような恋する男女にふさわしい情緒らしきものはまるで感じられないんです。 彼女と同じ空気を吸い共に暮らすことを夢見ているというのにそのような感覚がまるで得られないんです。
ホテルは自宅を開けていた間の残務をこなすにはまことに都合の良い場所だったんですが、時間と共に彼女からの連絡が来ないことが、彼女のが今どうしているだろうなどということが気になりだして、とうとうタクシーを飛ばし再び掘割の街に出かけて行ったんです。
そうそう都合よく彼女が掘割沿いを歩いているわけではないので、しかし彼女を探さずにはいられなかったので各店舗を一軒一軒無駄と知りつつしらみつぶしに覗いて見ました。
果たして千里さんはあの時出逢うことが出来た掘割にほど近い土産物店にまったく
不釣り合いな男と一緒に、しかし物憂げに店内を見て回っておられたんです。 声を掛けようとして思わず立ち止まり物陰に身を潜めたのは連れの男が周囲に人がいないとみるや千里さんのお尻にやたらと手を伸ばし妙なことをやってるからでした。 しかも千里さん、もの悲しそうな顔はすれどその手を振り払おうともしないんです。
嗚咽感に襲われ思わず店を飛び出した宮内司はその足で竹細工屋に駆け込んでいました。 恐らくその時司は頭を掻きむしりまるで泣きそうな顔でうろついた挙句店内のある一点をまるで自殺でもしそうな顔つきで見つめていたんだと思われます。
「あの時のお客さんじゃありませんか、どうなさいました?」 怪訝そうな顔をし司を覗き込み、泣き顔みて 「津和野にお帰りじゃなかったんですね? 悪いことは言わん、あの女は止めた方がいい」 司の顔を見て全てを悟られたんでしょう。 こう忠告されたんです。
「何故なんです? じゃあご主人はあの方を知ってらして僕に・・・」 そこから先は言葉になりませんでした。 が 「あなた様がそれほどまであの女を好きになられるとは思わなんだから・・・すまん事をしました」 司は彼女がそうしなければならない真の理由を知らないのに謝ってこられたんです。
お世話になった店先で妙な格好をするわけにもいかず司は、懲りもせずまた千里さんを求めてフラフラと川の畔をそぞろ歩きました。
いつか千里さんと美月ちゃんを挟んで三人でここを歩くんだと決めていた司は、あの喫茶を通り越し更に先へ延びる堀川をどこまでもどこまでも歩き続けたんです。
歩き疲れて、そう言えば何処かでここによく似た温泉郷に足を運んだことを思い出し足を止めました。 (・・・まさか、・・いや、でもあの有名な竹細工屋のご主人ともあろうお方が) 滅多なことを口走るわけがないという思いに至ったのです。
そこから先はひたすら足で稼ぎました。 旅の恥は掻き捨て。 その人の置かれている現状を知り、自分の方に引き寄せることが出来たなら、彼女がそれで幸せになれるならこの際恥などどうでも良いと思うようになったのです。
思い切ってもう一度堀川の畔に引き返しました。 お世話になった方々にできることなら迷惑をかけたくなかったので土産物店の売り子さんに事情を聴くことにしたんです。
必要もない品物をこれでもかと買いあさり、幾度もレジに顔を出し、ようやく口を割らせることが出来ました。
土産物店の店内で男が千里さんのお尻に触っていたのは
夜伽をしたその男を見送りに来ていてお金にあかせた男が再び、三度欲情したからだと知ったんです。
彼女が司を部屋に泊めようとしなかったのは自分が
男に買われる様子を見せたくなかったからだとわかり、ばつの悪いことに昼日中の店内で慟哭を抑えきれなくなったんです。
店内で嗚咽されいよいよ困り果てた店員は、「こんなことウチから聞いたと」 言わないことを約束にその旅館名と場所をも教えてくれたんです。
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