掘割に行き別れになった我が子と司を探しに出かけたいのは山々だが出かけるとなると恐ろしいことが起こりそうでその勇気がどうしても湧かない千里はせめてそのことを忘れる為司と出逢った頃のような衣服に着替え代わりに農園に続く山中の道を歩き回った。
二度と
舞い戻るまいと我が子を連れ
夜逃げまでした千里だったが、こうなってしまった以上嫌でも
育児放棄され辛く苦しく淋しい日々を送らねばならなかったあの頃に立ち返ることで美月ちゃんや司さんとの楽しかった想い出を吹っ切るしかないと思った。
何もないと信じ切っていた山中をとにかくがむしゃらに歩き回ったことで千里は何時しか山中にだって何かしら楽しみがあることに気づく。
田舎町であってもそれなりに賑わっていた風に見えた掘割。 しかし千里にとって彼女のためを思って官憲に通報してくれた、あの店員さん以外人の心を持った人間に行き当たらなかったような気がしたのだ。
淋しいだの怖いだのと避けて来た
深山幽谷にはまだそのような環境が残っているような気がしたのだ。 何年経っても変わらない想う心がそこにはまだ息づいているような気がしたのだ。
自分の
命に代えても我が子だけはと、それだけを願い想い続ける母。 しかしそこまで育ててもらった美月ちゃんではあってもやはり母が案じたように一緒に暮らしてくれる人に合わせるべく気持ちも心も努力し
環境に沿うべく母とは別の方向に向かって変えていってしまったようだった。
その最も悪なるもの、美月ちゃんの環境さえも変えなければならなかった原因を作ったのが本来彼女を千里を守らなければならない立場にある筈の宮内司だった。
人とは元来 貧すれば鈍する。
誰からか守られてると思えばこそ司は藤乃湯旅館の庭園の手入れを一銭にもならないのに自ら進んでやった。 美月ちゃんや千里に末は明るいと見せかけたかったからだ。 しかしその守り人である両親が老い自分が代わって守り番たる役につかされると日毎金銭感覚が悪なる方に芽生え
モノをケチるようになっていった。
育ち盛りの子に食べさせなければならないと頭ではわかっていても誰も見てないと分かると子に与えなければならない分までも盗み食いするほどに堕ちたのだ。
こういった心境の変化は親には分からない。 わからないと言うより可愛さに目がくらみ見ても見ないふりを決め込もうとする。 しかし実の親でもないのに育ててもらってる美月ちゃんからすればそれらのことは敏感に感じ取るようになる。 感じ取ると即ち何事につけ遠慮するようになる。 自分の親のようで親ではないことを肌身で感じるようになる。
彼女の心のどこかに自立できるようになったら彼らを捨てて都会に出るんだといったような気持ちが芽生え始め、歳と共に実行に移すようになる。
宮内司にしても何事につけ目先に走るものだから仕事は万事後手後手になりやがて周囲と盗っただの盗られただので争いそれが元で職を失うことになる。
こうなると美月ちゃん、如何に母親が厳しくも優しく教えてきたとはいえ生きる為子供は必然的にそれを身につけようとする。 司やその両親が喜びそうなこと以外口にしなくなったのだ。
嘘を嘘で塗り固めるようになったのだ。
口にできない、態度に示せない分外に向かって、弱い立場のモノに向かって
邪気を吐いた。 掃除などという言葉はもちろん論外で野良の犬や猫、貧する民を見かけると誰にも分らないよう虐待した。
それに拍車をかけたのが学校生活であり友達関係だった。 教える立場の教師自ら率先垂範万事事なかれ主義が横行し、悪行も自分に不利と分かれば法的に罰せられることが無いのを良いことに見て見ぬふりをすることを善しとした。
ましてや司がかつて美月ちゃんや千里に魅せてくれたような真のボランティア精神など端っから持ち合わせないような態度を表面上それと分からないよう取るようになる。
人とは見た目の美しさだけを評価するからだ。
美しく育った美月ちゃんではあったが容姿もさることながら何事につけ嘘で化粧で塗り固めるようになっていった。 きれいごとで済まそうとするようになり決して泥にまみれながらも喜びを分かち合うなどという心境を持ち合わせようとしなくなったのだ。
従ってふたりにとって掘割とは生涯に渡って避けて通らなければならない忌み嫌う場所、忌み嫌う民衆となってしまっていたのだ。
千里は山中の獣や樹木と接するうちに自然とそのことを知ることとなる。
司が大衆の力で築き上げさせてもらえたはずの利を何としてでも我が物にしようと人混みの中へ都会へと走るのとは真逆に千里は
深山幽谷へ森閑とした場所へと移っていった。
完
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