自分たちが元凶を作ったとはいえ嫁が
発狂するということは紙屋 (かみや) にとって表面上は厄介千万でありながら裏を返せば実に有益な出来事でした。
何故なら本家としての対面も時代とともに廃れ収益がその分減っていてそれを取り戻すべく試行錯誤していて思いついたのが出来の悪い嫁を押し付けたと、相手は親戚縁者になったというのに嫁の実家を強請ることだったのです。
家に精神疾患者がいるというのは深刻です。
それでなくともこの時代、ひとりでも稼がないで遊んでばかりいられたら養っていくだけでも大変だったんですが、それも当時役立たずと言われた女とあっては世間体が悪いと付き合いを絶たれるからです。
困りごとが発生すれば近所で貸し借りをするしかないこの時代に、精神疾患者のためそれが出来なくなるということは家の存続にかかわることなんです。
病んだ雅子さんを追い返されれば自分たちが村八分になるものだから唯唯諾諾紙屋 (かみや) の要望に従おうとします。
本人は精神はもとより身体も実のところ病んでるわけではないんですが
座敷牢に入れられてるような状態で言い返すどころか現状がどうなってるかさえ知ることが出来ないんです。 そんな中での
強請り集り。
しかし悲しいことに何故だか入谷村ではこの時代これが普通だったんです。 そう、隣村とは社会と隔絶することを余儀なくされた鳥も通わぬと謳われるほどの僻地だったからです。
そんな中、あの寛治さんだけは雅子さんを見放さず、相変わらず潜んで通って来てくれてました。
自分が先頭に立って守銭奴をやらかしていたというのに、この時だけは自分の中に溜まった膿を、それも目上に当たる紙屋 (かみや) の嫁の胎内に吐き出すことだけが頭の中を締めていたからです。
季節は巡り巡ってもうそろそろ田植えが始まろうとしているときになって寛治さんが例によって例の如く
朝鮮人参と何やらを混ぜた
せんじ薬を雅子さんに与えていました。
「うえ~ これ飲むんですか? 今日は特別気分が悪くて・・・」
「辛抱してだましだまし飲みなさい。 躰に良いと思って」
本当のところ寛治さん、自宅から先だって手に入れたばかりの魚の煮つけを持って来てやればよかったんですが、残念ながら我儘なふたりの子供に自分が食べる分も食べられてしまっていて持って来れなかったんです。
「前に頂いたときにはとても飲みやすくて・・・」
雅子さんが言い募るのも無理はありません。 寛治さんもこの時代生きていくため極秘裏に作っていた
朝鮮人参のほぼ全てをお金に換え家計を賄っていたからでした。
「ああ・・・ え~っと、そのう~ まあなんだ。 薬学の書の紐を解いてな」
親から教えてもらったような記憶のある薬草を適当に混ぜて作った漢方に似たようなものを持ってきていたんです。
朝鮮人参の売れ残りを混ぜて。
「儂も毎日これを飲んどる」
病人に向かって窓越しに棹を引っ張り出して晒しました。 なるほど雅子さんが何もしないというのにギン勃ちしてるんです。
「ごめんなさい、疑ったりして・・・頑張って飲みます」
顔を歪め飲み干す雅子さん
「おおそうじゃ、雅子よ お前
鯉こく知っとるか?」
問われて雅子さん、コイと聞こえたものですから思わず今しがた魅せて頂いた
棹を連想してしまったんです。
「こんな体ですみません。 不自由させちゃって・・・」
消え入るような声で応える雅子さんに
「そうか・・・あれを持って来よう。 うん、それが良い」
独り合点する寛治さん
思い付きと言おうかこの時の寛治さん、原釜 (はらがま) は嫁を殺してしまった言わば疫病神の元凶でもあるというのにこと番うとなると別物らしく女をたらし込むことについてはよく頭が回るんです。
原釜 (はらがま) 家にとって最も大窪のあるあの場所に堤があったのに気が付きました。 堤にはいつかはこうなるかもしれないと鯉が飼ってあるからです。
「う~ん、そうか。 確か上手 (かんて) の源さんが持ってた筈じゃ」
その堤の鯉を釣り上げ
鯉こくならぬ煮魚にして持って来ることを思いついたんです。
貴重なテグスや針を源さんは納屋の入り口付近に竿と共に無造作に立てかけてあったのを美智子さんを転がそうと忍んで行った折に目にしてたんです。
(あれを気づかれぬうちに盗んでしまおう )
竿は確かに高価なものに違いないんですが、テグスとなると風に吹かれ飛んできたものが引っかかって千切れてしまったことにすれば問題ありません。
思い立ったら吉日と寛治さん、紙屋 (かみや) 家の裏を抜けると竹谷 (たけだん) 伝いに縁遠谷 (えんどだん) 道に入り峠を越え下組 (しもぐん) に向かいました。
上手 (かんて) 家は縁遠谷 (えんどだん) 道を下組 (しもぐん) に向うと最初にある家なのです。
峠を越え谷に降りると上手 (かんて) の田んぼで美智子さんが草刈りをしていました。
寛治さん、上組 (かみぐん) の衆が下組 (しもぐん) に向っていることを知られたらテグスや針どころでなないのに美智子さんを見た途端棹が邪魔しました。
「こんにちはー、田起こしの用意かのう」
のんびりと声を掛けたものです。
「アラ~ 寛治さん」
喜び勇んで駆け寄ってくる美智子さん。 田の畔で寛治さん、その美智子さんを思わず抱き止めてしまっていました。
「随分ご無沙汰じゃない。 お元気そうで」
美智子さんにしげしげとみられた時には既に寛治さん、久しぶりの健康そうな女の香りやふくよかさに股間を膨らませてしまっていたんです。
「元気もなにも・・・何分にも鰥夫での」
その一言で決まりでした。
美智子さん、あたりを首をめぐらし誰もいないことを確認すると畦道を山の方に向かって寛治さんの手を引いて奥へ奥へと引っ張り込んだんです。
「ここなら誰も来ないでしょ」
振り返った美智子さんの目は真っ赤でした。 恥ずかしそうにうつむいてはいるものの、視線は明らかに寛治さんの股間に注がれていたんです。
「おおそうじゃ、儂はお前にの・・・」
言いかけるのを制し美智子さん、おもむろに寛治さんの前に跪くとファスナーを引き下げ棹を取り出し握ってきたんです。
「溜まって・・・困ってたんでしょ?」
いたずらっぽく笑うとすっぽりと口に含みました。 肉胴を右手で支えズリュッズリュッと口腔内で扱き始めたんです。
「んわっ あわわわ! む~ たまらん」
まるで天国に導かれるような心地よさなんです。 見下ろせば襟元から真っ白い乳房が揺れています。 気が付いたときには寛治さん、美智子さんの乳房を揉みしだき乳首を二本の指で転がしていました。 寛治さんにとってほんの少しの間横道にそれていただけなのに美智子さんにとってそれは我慢しきれないほどはるけき昔に思えたんでしょう。
男が想像する以上に我慢し続け男根に飢えていた美智子さん、寛治さんの棹を口元から離そうとしないんです。 忘我に揺らめき肝心の目的ごとさえ危うく忘れるところでした。
口元から引き剥がすことが出来たのは近くの藪から人間の気配に驚いた雉が飛び立ったからでした。
「きゃっ、誰か来たの?」
思わず怯える美智子さんに
「こんな辺鄙なところ、誰~れも来やせん。 それより儂にも魅せてくれんか」
我が娘が風呂に入ってる時に焚き番のフリして覗き見る以外お目にかかれず難儀していた寛治さん、今度は自分が跪き天を仰ぎ見る形でモンペをずり下げ後ろ向きになって突き出してくれた美智子さんの尻を狂ったように舐め上げました。
情けない話し寛治さん、たったそれだけで先っぽは狂おしさに涙を流してるんです。 かつて地蔵堂で堕としまくった御影はもうそこにはありませんでした。
鈴口に光るモノを見た美智子さんも一気に昇りつめていきましたが所詮お互いの目的がかみ合わなかったんです。 美智子さんは今でも寛治さんを見ていて、しかし寛治さんは今では雅子さんを見始めてるんです。
目的の中に上手 (かんて) 家に潜り込んで窃盗というのがありました。 そこに思考が至った瞬間萎え始め、寛治さんは美智子さんを開放してしまいました。
「元気かどうか聞きたかったんじゃ」
萎えた理由をそう説明しました。
「それでわざわざ・・・あなたらしくない。 変わったはあなた」
それが最後の言葉でした。
美智子さんにはわかりました。 こういったときの女の感は鋭いものがあります。 彼女は寛治さんの中に新たな女を見たのです。 ここに来たのはどういった目的だったのか、それは解らないけれど少なくとも自分を抱きたくて来たんじゃないことぐらいは人妻である以上よく解りました。
寛治さんは目的を果たさずして帰途についたんです。
(う~ん、無駄かもしれんがやってみるか)
滝の谷 (たきんたん) の近くの竹藪が思い出されたんです。 不器用な寛治さんですが上手 (かんて) の源三さんになりきって籠を編み、その籠に鯉を誘導し掬い取ろうとしたんです。
テグスの代わりに木綿糸をとも思ったりしましたが、木綿糸が万が一切れてそれを鯉が引きづったまま泳いでいたらいつか近いうちに死んでしまいます。 無駄死にさせないためにも竹の竿を何本も池に立てておいて、そこに鯉を追い込んで籠を使って掬い捕ろうと思ったんです。
これは時間との競争でした。 雅子さんの栄養と精神力が尽きて
廃人になってしまうか、それとも自分が勝って雅子さんを檻から解放してやることが出来るかの勝負で、試行錯誤を繰り返すうちに季節は巡り巡ってもうそろそろ田植えが始まろうとしているときになって寛治さんが例によって例の如く
朝鮮人参と何やらを混ぜた
せんじ薬を雅子さんに与えたのです。
長者なれば知ってしまった紙屋 (かみや) がやらかしている集り。 しかしそれは放っておけばやがては雅子さんの実家が食いつぶされてしまうからです。 病んだ躰を癒しに帰る。 その大事な実家を夜逃げに追い込むことになるからです。
一刻も早くこれを完成させ雅子さんに栄養豊富な鯉を食わせ紙屋 (かみや) から助け出す。 そのことがいつしか寛治さんの使命のようになっていました。
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