「まっ、まっくら・・・いやだぁ・・・こ、こわい・・・あぁ・・・こわい・・・」
照明の点滅も不気味なものだが、
暗闇の訪れはありさをさらなる恐怖に陥れた。
「いやっ・・・私が一体何をしたというの・・・?どうしてこんな恐い目に遭わすのぉ・・・?いやぁ~~~~~~~~!!もう許してぇ~~~~~~!!」
叫んでも、自身の声が反響して返ってくるだけだった。
ありさは涙声になっていた。
もしかしたらこれはありさを苛めるために、誰かが仕掛けた悪戯なのだろうか。
それとも非科学的な話ではあるが、一種の
超常現象が発生したのだろうか。
原因が何かは分からないが、いずれにしてもこの局面から早く脱出しなければならないことだけは確かであった。
とは言ってもこの狭い個室から抜け出して、非常灯のみの
暗闇の中をさまよい出入り口までたどり着いたとしても、引き戸が開かないのだから外への脱出は叶わない。
今のありさにとっては暗い便所内をさまようことの方がもっと恐ろしかった。
それならまだこの狭い個室内に閉じこもっている方がましだ。
夜明けが訪れたら窓から明かりが差し込むので活動も楽になり、きっと脱出の方法が見つかるだろう。
とにかく夜明けまで数時間の我慢だ。
ありさは個室からは出ないで中で篭城することにした。
それから5分が経過した。
ありさは静寂と
暗闇の中で立ったまま息をひそめて耐えている。
微かな疲労感を覚えた。
鞄をロータンクの上に置くことにした。
便器の蓋を閉めてその上に腰を掛けた。
スカート越しに便座の冷たい感触が伝わってくる。
夜も更けて、かなり気温が下がっている。
「あぁ・・・寒い・・・」
ありさはバーバリーチェックのマフラーを巻き直し、コートの襟を立てた。
「ううう・・・寒いよぉ・・・」
ありさを責め苛んだのは
暗闇と寒さだけではなかった。
それは時間の経過の異常なまでの遅さであった。
まるで時が止まってしまったのではないか、と思わせるほど時間が進まなかった。
もしかしたら永遠にこの
暗闇が続くのではないだろうか。
本当に夜明けが訪れるのだろうか。
ありさの心に不安がよぎった。
緊張の連続だったせいか、ありさは
尿意をもよおした。
幸いにもここは便所内なので用を足すには困らない。
ありさはおもむろに立ち上がり、便器の蓋を開けスカートをまくった。
パンティを下ろし便座に掛け直す。
まもなく水の弾ける音が聞こえ、ありさはささやかな安堵感に包まれた。
(ふぅ・・・・・・)
ありさは小さくため息をついた。
放出し終わりトイレットペーパーで大事な箇所をそっと拭う。
立ち上がってパンティを上げようとした時、突然、強靭な力がありさを支配した。
「えっ・・・!?」
細い腕のようなものが胴体を拘束している。
それは痩せていて骨っぽい感じがする。
それだけではない。
まるで蛇のように冷たい。
ありさの背中に悪寒が走った。
「何なのっ・・・!?」
(カチャッ・・・)
次の瞬間、両手が吊り上げられ、手首に紐のようなものが巻きついてきた。
「えっ!?うそ!!なに!?ぎゃぁ~~~~~~~~~~~~~!!」
ありさはあまりに突然の事態に戸惑いを隠しきれなかった。
いったい何が起きたのか。
その正体は不明だがそれが悪意に満ちたものであることだけは間違いないと思った。
胴体と手首の自由が奪われてしまって身動きできない。
(ジリ・・・ジリ・・・)
恐ろしく強い力がありさを間仕切り板側へ引き寄せていく。
足を踏ん張って抵抗を試みたが、その力は強大でありさにはとても防ぎ切れなかった。
「いやぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~!!助けてぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~!!」
愛と官能の美学
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