【シェアハウスのように】指令その1 妻の浮気... 第五話 そりの合わない夫婦
山尾夫婦のように離婚訴訟にまで発展する場合は双方、或いは一方のプライドによるものがい多いという。
プライドの高さは地位の高さを示す。
横山を始めとする長瀬一派は依頼者でもある某財閥系に勤務する夫の敏夫のほうが高いとみていた。
ところがよく調べてみると、敏夫の生まれは地方で、親はしがないサラリーマン、むしろ艶子のほうが育ち良いとわかった。
塾に行かせてもらえる余力がなかった親を持つ敏夫は独学で国公立の中・高を受験、一浪もすることなく東大に進んで某財閥の引きを得た。
一方の艶子は親が通った学校になんの疑問も持たず勧められるままに通い、卒業後は親に付き従って社交界にも顔を出し、多くの男性と交友を交えている。
一切の無駄を省き、ひたすら立身出世を目指した生真面目な夫の敏夫に比べ、妻艶子の歩いた社交界は色恋に深く通じていた。
誰某のお目にかかる事こそ繁栄が約束されたからであった。
毎日計ったように決まりきった時間に出社し、残業して帰る夫と違って妻は結婚しても夜っぴてパーティーに饗するのが普通であったため、生活にすれ違いが生じた。
一流ホテルや料亭の美食・美酒に酔いしれる日々を送るのが普通だった艶子には、家庭料理などというものがそもそもなじまなかった。
何はさておき日々、恋だの愛だのと騒ぎ立てることこそ生きがいだと感じていた艶子にとっては、(のちに述べるが)レスの夫に仕えること自体苦痛になっていた。
既婚者同士でもパーティーの夜だけは秘かな逢瀬を楽しむことは上流階級の通例であり、血族を守る意味でも重要だとされていた。
つまりなさぬ仲であっても別族の血を入れないことこそが大切とされていた。
その戒めを見た目の良さだけで破ったのも艶子なら再びオトコ狂いを始めてしまったのも艶子。
心がざわめかない日々を過ごすことなど、到底できない身体になってしまっていたからである。
某財閥系企業の役員の中には艶子の親族系が催すパーティーに招かれるものも少なからずいる。
艶子の噂はその折に伝わった。
敏夫は山尾家の将来を考えろと、暗に艶子のことについて上司から忠告を受けたことも含め、性に対する考え方が全く違うと感じて苦悩していたのである。
艶子は社交辞令上多くの男とこれまで身体の関係を持っている。
---上流階級なら致し方ないことであったが---
ということは注ぎ込まれた精液が生理により定期的に体外に排出されたとしても、体内に少なからず彼らの遺伝子は残り生まれてくる子供に何らかの遺伝的影響が出ることは考えられなくもなかった。
生まれてきた子供が夫の敏夫に似ても似つかなかったからである。
それを言葉に表し追求したくても相手は所詮上流階級の出、意にも介してくれないだろうことは解っていた。
残る手段はレスしかなかった。
レスすれば孕んだとしても、それは夫の胤ではない。
だがレスを強いられれば男を探し出し、挿し込んでもらう以外に欲求を解消できる手段はない。
衣食住も困ったが性はもっと艶子をして困らせた。
おしとやかに街を歩くだけでは男狩りは出来ないと知って恥を承知で多少大げさに声をかけて歩いた。
「うちの人とはもう何年もご無沙汰」 酔った勢いで口にした言葉を本気に捉えるものもいた。
秘かにテーブルの下でパンティーの中に彼を招き入れ探らせ感触を互いに楽しんだりもした。
愛液をお酒のつまみにされたりもした。
その結果 男が次々と網にかかり押し寄せてくるようになった。
警備員然り、ストーカー然りで、こうなってくると押し寄せる男どもの勢いはどうあがいても止まらない。
それはもう、上流階級の礼節を踏んだ絡みではなくあたりかまわず野辺の絡みになった。
艶子は自分で自分の首を絞める形になったのである。
高級住宅街の人妻が簡単にやらせてくれるという噂は一気に広まった。
これをいち早く耳にしたのが艶子の生家である。
秘密裏に山尾家から引き離さねば一大事になるが、その際は一切を山尾家の不祥事として被せ 始末することというのが親元の富小路家のご意向だった。
それはそうだろう。
富小路家は末の繁栄を願うあまり、秀麗で誉れ高い艶子をして色恋で家を保とうと社交界に送り込んだ経緯があるが、今となってはそれは無かったことにしたかった。
噂は既に千里をはしてしまっている、しかしながら正面切って我が娘を好き好んで売女せしめるわけにもいかなかった。
ここまでうわさが広まってしまった以上、女の操を売るように命じたのは、あくまでも山尾家当主にしたかった。
かくして山尾家を守ろうとする長瀬一派と、これを取り潰そうとする富小路家の争いが始まった。
そりの合わない夫婦の間の争いは一気に両家を巻き込んだ争いに発展していったのである。
悲しいことにその間も艶子は様々な男と逢瀬を楽しんでいた。
艶子が男と関係を持つと早速その証拠を手に入れ、互いに相手家のさしがねと非難し始めたのである。
相手方の息が少しでもかかっている男であればすかさず手を回し、艶子と絡ませようとした。
艶子にとって望むべくもない厚遇だったが、証拠を常に突き付けられ責められる敏夫はたまったものじゃなかった。
妻が寝盗られる様子を逐一動画で魅せ付けられ、それを自分のせいだとされては平常心でいられるわけはなかった。
そしてある日、とうとうその動画が敏夫のもとに届いた。
結婚を明日に控えたその日の午後、野辺で男に組み敷かれ苦しみ・喜悦にもがく艶子がいた。
組み敷かれた当初は男から逃れようと必死にもがいていた艶子だったが男の執拗なクンニが繰り返されるとついに屈し、挿し込みを哀願するに至った。
硬く結ばれた結合部から互いに吐き出した液が混じり合って流れるさまは敏夫をして怒りに火をつけた。
結婚以来初めて、外出から帰ってきた妻を敏夫は呼び止め、この動画を魅せ付け折檻した。
嫉妬に狂う夫、艶子は自分のしでかした愚かさに気が付いた。
この動画を届けた主の見当もついた。
この動画に出てくる男は仕向けた富小路家に関係するもの以外知るはずもなかったからである。
しかしそれを認めてしまえば世間によって富小路家は潰される。
逆に山尾家に何事もなかったかのような顔をして戻ったりすれば、今度は富小路家によって山尾家に災難がかかり取り潰される。
結婚に際し、あれほど両親が反対していた理由がやっとこの時になって分かった気がした。
生まれ育った環境がこれほど違えばそりの合うはずがなかった。
艶子は明け方秘かに山尾家を去った。
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