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入谷村の悪しき淫習 「落日の長者」~天国への階段~

 落ちぶれ始めると、もうその家系はやり方を改めない限りいくら頑張っても望んでみてもかつての繁栄を取り戻すことはできません。

 銘家が落ちぶれる原因に賭け事と女道楽があります。

 賭け事の中に相手をよく知らないで過大な投資をしてしまう、いわゆる博打投資というのがあります。

 女道楽の原因に嫁が寝取られ、或いは家訓に合わないと姑が三下り半を突き付け実家に追い返したなど、いわゆる夜伽を失い代替えの女を求めた所あらぬ散財をしてしまったというのがあります。

 このふたつ、入谷村の上組 (かみぐん) 原釜 (はらがま) 家がまさにそうでした。

 せっかく引き返せるチャンスをくれたというのにその都度それにわざと逆らい、やみくもに突き進んでしまったのです。

 まるで自分を育ててくれた家族や両親、環境への仇討ちをするかのようによく知りもしないくせに高利貸業に走り、嫁に不満を抱き女道楽を始めるなどやること成すこと滅茶苦茶で資産を次々に失っていったのです。

 子育てを誤るとその子は何事につけ親を越えてやろうと先走り、せっかく親が苦労して得た財産を値打ちも知らず湯水のごとく売り払い果てに資金が底を突いているにもかかわらず豪遊する。 よくあります。


 国宝級のお宝が二束三文で夜店に並ぶなどと言うのはえてしてこの類です。 しかしだからと言ってこれを止めなければ親戚縁者にも影響を及ぼします。 ですが、止めようとすればするほど相手は躍起になって逆のことを敢えてしでかします。

 歴史的な流れから言えばこの家系、滅ばなければならなかったから滅んだだけのことなのかもしれませんが・・・

 「回覧板置いときます」

元気よく玄関を入り、上がり框に回覧板を置いて上野 (かみ) の足羽紀美子ちゃんが元来た道を帰って行きました。 紀美子ちゃんは3人姉妹の2番目、ご両親に似ず優しく清らかで誰にでも好かれていましたが、殊に寛治さんには好かれていました。 その紀美子ちゃんが早朝回覧板を持ってきました。 原釜 (はらがま) 家に気軽に出入りできるのは紀美子ちゃんを置いて他に居なかったからです。

 回覧板と言うのはお隣からお隣に回しますが、その順序はその地区によって変わります。 この場合原釜 (はらがま) 家に届けようとすると紀美子ちゃんが一番都合がよく、常に上 (うえ) 、上野 (かみ) 、原釜 (はらがま) 、下谷 (しもんたん) 、本谷 (ほんだん) 、上薬研 (かんやげん) の順で回していたんです。 他の集落は一巡すると今度は逆順に回すのにです。

 「来たか。 おい、なんて書いてある」

寛治さんは眠そうな目をこすりながら回覧板を持ってきた長女の波留美ちゃんに聞きました。

「さあ・・・読んでない。 けど・・・多分、お父さん此間 (こないだ) 常会に出たんじゃなかった? きっとそのことよ」

原釜 (はらがま) の兄妹、それに上野 (かみ) の由紀子ちゃんと恵美子ちゃん

揃いも揃ってどこでどう育て方を間違えたのかその性格の悪さときたら回覧板を持ってきてくれた上野 (かみ) の紀美子ちゃんに比べ遠く及ばないんです。

 朝っぱらから上野 (かみ) が回してくれた回覧板なんか読みたくも無かったんです。 が、まさか夜伽を避けたことで困り果てボケ始めた母やその夜伽の件で三下り半を突きつけた妻に読んでとも言えず仕方なしに自分で読まざるをえなかったので渋々読み始めました。

 常会で決まった木出しのことについて書かれていました。

「くぉのぉ~ よくも・・・あの死にぞこないめがぁ~」

後は言葉になりませんでした。 

 晴世さんの意見を採り入れ寛治さん、自分が入谷村の代表になったつもりで里の製材所を回って山の木の切り出しについて意見を窺い、良い返事がもらえなかったものですから、それではと次に竹材屋を回り孟宗竹の切り出しについて話しをまとめ、ようやく入谷村にも村外の資本が入るようになったのに、常会で繰り返し繰り返し原釜 (はらがま) 家の持山の木を、入谷村の木を出すついでにウチの木も伐り出してほしいと頭を下げるも、その場では知らんフリし、後になって常会を取り仕切った中組 (なかぐん) の長 紙屋 (かみや) の長嶋定男さんはちゃっかり自分の持山の木だけを伐り出し中組 (なかぐん) に向け搬出するす計画を推し進めていたのです。

 「寛治よ、話しが違うじゃないか」

「おう正治、そのことよ。 常会で儂の願いを聞いておったろう。 儂もこの度は納得できん」

そもそも未だ計画段階で交渉に当たったつもりも無いのに、いつのまにやら本決まりになっていて言い出しっぺは蚊帳の外に置かれているんです。

 誰が見ても製材所が勝手に手を回し、中組 (なかぐん) の長が私腹を肥やすためにこれを利用したとうつりました。

 しかもその計画では入谷川を挟んで埼松家の対岸の山の裏側。 つまり上薬研 (かんやげん) の、あの鉞 (まさかり) と焼酎の村迫金兵衛さんの裏山の木を一斉に切り出すことになっていたのです。

 上薬研 (かんやげん) は上組 (かみぐん) の縄張り、そこに定男さんは埼松家を通じて焼酎を掴ませウンと言わせたんです。 原釜 (はらがま) が怒るのも無理からぬことでした。

 「これじゃ寛治よ、お前が話しとった隠居 (えんきょ) の墓に向かって上薬研 (かんやげん) 道に沿って引っ張り出すんじゃなくて・・・」

「おうよ、上馬見川に木馬道 (きんまみち) 作って中組 (なかぐん) の紙屋 (かみや) と隠居 (えんきょ) の田んぼに向けて引っ張り出すつもりじゃ」

つまり上組 (かみぐん) はこの際指をくわえてみてろと言うわけなんです。 さすがに古狸の計画でした。

 この計画、よくよく考えてみればまことに理にかなってました。 なにしろ寛治さんが当初考えた計画でいうところの上薬研 (かんやげん) 道に沿って引っ張り出そうとすれば山から切り出し谷底に落した木材を今一度山の頂上に引き上げ、つまりひと山越えさせ、そこから再び谷底に向かって引き出すことになるなど採算面と労力から考えると有りえなかったからです。 もしやるとしても木材を曳く馬は入谷村は持ち合わせていなかったんです。

 それに比べ上馬見川に沿って引き出せば多少危険は伴いますが谷底へ谷底へと引っ張り出せば済むことなんです。

 「ちきしょう、してやられた」

地団駄を踏む寛治さん、でも先見の明がある正治さんには最初からわかっていました。 しかし相手は言ってみても聞く耳持たない寛治さん、その場では何も言わなかったんです。

 その月の終わりに農協職員が役場の職員を伴って入谷村を訪れ緊急の常会が開かれました。

女房どもは懸命に炊き出しをし、両名をもてなしました。 そしていよいよ常会が始まり

「この度はお集まりいただき・・・」

農協職員のあいさつを受け役場の職員が説明に入りました。 この形式は常の事なのです。 入谷村の人々は質疑応答など一切せずただただ頭を垂れて聞き入りました。

 入谷村の里に通じる最も大きな村道はこれまで大八車は通るものの自動車は幅員が狭すぎて通れなかったものです。 材木を出すにあたりこの村道を入谷村の繁栄のため車が通れるように、出来ないならせめて期限内に馬車が通れるよう凸凹道を均し (平らにすること) できうる限り拡張しようと言うものでした。

 「人夫賃は樵の日当に合わせ公費で負担しますが、何分にも工事用の車が通れないものですから・・・」

最初は勢いに乗って滔々と喋った役場の職員。 が、そのうち段々勢いがなくなり歯切れも悪くなり、終いにはぼそぼそと聞き取れないような声で話し始めたんです。

後々回って来た書類で確認すると要するに肝心要の人員と資材は村で賄え、定められた工事を期間内に村で責任をもってやれと言うことなんです。

 「なんで紙屋 (かみや) の木を出すのに儂んとこの大八車を!?」

怒り心頭の寛治さんなんですがその訳というのが村で大八車を持っているのは原釜 (はらがま) だけだったんです。 農協も気を使って近隣の村に声を掛けてくれましたが、今時大八車などあろうはずがなかったんです。 まさか畚 (もっこ) で担ぎ出すわけにもいかず、この件は寛治さんの了解を得ずして事後の常会ですんなり決まりました。

 「だから言ったろう、お前さんは詰めが・・・」

正治さんが寛治さんをくさすのも無理はありません。 道普請に使う泥は原釜 (はらがま) の墓の境界に面した紙屋 (かみや) の持山を役場が切り出す量に沿って買い取り、そこから出すというんです。 そこに墓の崩落云々の保証は含まれていないどころか議事にも上らなかったのです。

 「紙屋 (かみや) が儲けて儂にはタダで大八車を持って来させ期間内に終わらせるべく認めの爪印を境界に当たる儂に寄こせか」

吐き捨てるように言った寛治さんはしかし、肝心の工事が始まると監督よろしく 重労働にはさして従事しようとはしなかったんです。 その、余った体力を相変わらず女道楽に注いでいたんです。

 言い出しっぺの晴世さん、村が閑散としていたころは労働力に男女差はほぼ無かったんですが、このように大規模な工事が入ると女も参加しているとはいえ所詮男の仕事、女は暇です。 暇になるとどうしても美晴さん同様いつもの癖が出ます。 ふたりとも家事も牛飼いもそっちのけで唯一の楽しみである自慰に耽りました。

 寛治さんも爪印まで捺して大事業に関わっておきながらその実、暇さえあれば晴世さんのケツを追っかける算段をしていて、とうとうある日自制心を失い上野 (かみ) 家に忍び込み偶然自慰に耽る晴世さんを見つけてしまったのです。

 「なによ! そんなところでコソコソ覗き見して」

「儂がコソコソだと? 覗き見に見えるか? 牛を見に来たこの儂がか?」

晴世さんが言い募った通り寛治さん、すでに股間が膨らみ始めており覗き見に違いなかったんです。

 それと言うのも晴世さんが自慰に耽っていた場所と言うのがこの時間帯情事を行うのに最もふさわしい上野 (かみ) 家の納屋の二階、つまり美晴さんの時と同じ藁置き場だったからです。 そこから先は何事につけやけのやんぱちになってしまった寛治さんのこと

 晴世さんを下半身すっぽんぽんにさせたまま寛治さん、ファスナーを開け褌の隙間から男根を取り出し彼女の眼前に晒しました。

 以前にも述べたように経産婦の悲しさ、直ぐに反応し始め、あとは阿吽の呼吸で晴世さんに握らせたのです。

 道具としてキュウリしか持ってきていなかった晴世さんはごくごく自然にそれを掌で包み込み擦り始めました。

 寛治さん、久しぶりに計画に沿って了解を釣りつけることが出来たのです。 興奮し切ったふたりは直ぐにベロチューを交わしました。

 寛治さん、すかさず晴世さんの首筋に唇を這わせ下半身を掌を使って押し包み具合を確認し、その流れの中で仁王立ちになりしゃぶらせたんです。

 晴世さん、入谷の大火以来ご無沙汰が続いていましたから雄々しいものを魅せつけられこれに飛びついてきたんです。 それからしばらくは晴世さんに向かってベロチューを求めしゃぶらせ・・・を繰り返しました。 晴世さんは徐々に引き返せない世界に入っていったのです。

 「今日は工事に出なくて良かったの?」

不安そうに、しかしこのまま置いて行かれてはとせがまれた寛治さん。

 残念ながら場所が場所だけにそこでホンバンとはいきません。 かと言って以前のようにあの大火の現場近くを通って入谷村の誰もが知ってしまった豊里屋の墓に向かうわけにもいきません。

 焦れに焦れた晴世さん

「ねえ、今夜逢える? ウチいい場所知ってる」

「・・・ああ、わかった。 案内せい」

約束を取り付けることが出来たこの時は思う存分納屋で物陰に潜み魅せ合って夜に備えました。

 そしてその夜、あの頃のように晴世さん、またしても例の不気味な音で寛治さんを誘い出しました。

「・・・こっちに来て・・・ここよ」

晴世さん、以前のように原釜 (はらがま) の家の裏に現れると以前と違いそのまま下谷 (しもんたん) の方角に向かい、しかし今度は家の前をコソコソ隠れながら通り越し水路沿いを山際に沿って入谷道の方に向かったんです。

 向かった先は上組 (かみぐん) の守護人が祀られている地蔵堂でした。 道普請の泥を掘り出している現場と目と鼻の先にある村人が10人も入れば満杯のような地蔵堂にです。

 「お前にも呆れたもんだ。 まさか儂らがここで・・・バチあたりも程が・・・」

「じゃあどこがあるというの? 誰だってまさかと思うでしょ?」

昼間入谷村の連中が必死になって立ち働く現場近くの御堂で夜這いとは、さすがに寛治さんでも思いつかなかったようなんです。

 ですがたとえ危険な場所と知ったとしても今のふたりにそれに抗う気持ちなど沸き起こりませんでした。

「あああ・・・欲しかったの・・・これが欲しかったの」

「ああ、儂もだ」

晴世さん、地蔵堂に着くや否や急いで脱ぎ始めました。 寛治さんも目を血走知らせ晴世さんが大きく開いて魅せてくれたアソコに顔を埋めたんです。

 十分に蜜を吸うと今度は昼間行ったように互い違い (69) に向き合い舐め合いが始まりました。 流れの中で責める者と責められるものに別れました。 以前のように寛治さんが横臥し晴世さんが顔騎するヤリ方ではなく寛治さんが晴世さんの上にのしかかるように押さえ込んでおいて晴世さんの口元に男根を与えたんです。 晴世さんが夢中でしゃぶり始めると寛治さんもすぼまりからクリに向かって幾度も舐め上げました。

 そうやって晴世さんに火を点けておいて後ろを向かせ責め始めました。

 晴世さん、久しぶりだったこともあり、しかも深夜の御堂 良い声で鳴きました。 寛治さんも我を忘れて晴世さんを責め抜いたんです。 しかしそこに落とし穴がありました。

 なんとその地蔵堂は大火以来美晴さんが夜な夜な密かにお百度参りを欠かさず行っていたんです。 夫婦の絆を願ってでした。 そしてその夜、美晴さんは再び晴世さんと寛治さんの逢瀬を・・・というより最早口にするのもおぞましい光景を覗き見することになるんです。

 自身がそうであった頃は気にもしなかった熟しきった女の秘部、加齢によるものか男が触り過ぎるのかそれとも自慰が過ぎるのか、ともかくグロテスクの一言に尽きるのですが、なんとご主人はその穴に嬉々として棹を送り込み続けているのです。

 御堂の中にこういった折でなければ嗅ぐことのできない独特の腐敗臭の饐えたような臭いが立ち込めました。 寛治さんにもご主人にも掻き出してもらうことなく連日自慰を重ねた、その分泌物が溜まりに溜まって悪臭を放っていたんです。

 「どうじゃ晴世、変なもん突っ込むよりホンマモンがええじゃろう」

よがり狂う晴世さんを散々突き上げ泣かせた後、その尻に向かい寛治さんは久しぶりに放ちました。

 見てはならないものを美晴さん、しっかり見届けてしまいした。 放ち終わってホッとし床に座り込む寛治さんに、その程度では満足できなかった晴世さんが迫り、太股の上にのしかかり萎えたモノを口でご奉仕し始めたんです。

 昼間の納屋でのこともありますし、寛治さんだってご無沙汰。 直ぐに復活しました。 すると晴世さんは再び寛治さんに魅せ付け迫ったんです。

 晴世さん、ご本尊様が鎮座する仏壇に片足を預け後ろから責めてもらってる、アレの真っ最中に怒りを露わにしその前に美晴さんが凝然と立ったんです。

 ふたりとも肝が潰れるほど驚きました。 そして罵ったんです。

 

 恨みごとの一言も口にしないまま美晴さん、地蔵堂に燈明をかざし汚されてしまったところの掃除を始め清め終えるとお祈りを始めました。

 滝の谷 (たきんたん) の水神様を晴世さんと寛治さんに汚されてしまった以上美晴さん、地蔵堂以外おすがりする神仏・場所がなかったんです。 行をする間中、ふたりに罵られました。

 最早ふたりに何を言ってみても無駄だと思ったんでしょう。

 翌日の気怠い午後の陽射しを浴びながら、美晴さんはかつて晴世さんが寛治さんと逢瀬を交わしたそのままに 部屋に自分の敷布団を敷き、台所から包丁を持ち出すとまず手首を布団の上で切り血を滴らせ、次に鴨居に紐を掛けました。

 恨み言の書置きも遺書も一切記せずして美晴さんはひとり旅立ったんです。


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