疑惑 村の行事の中に穢多では参加できないものがあり、それが不幸をよんだ
夜が明けやらぬ頃起き出して、朝露が降りた畔の草を刈る。
それを持ち帰って、牛の餌とした。
田の畔の草を刈るにしても、それを無駄にしない百姓ならの工夫があったが、入沢村の百姓は畔に田から掬い上げた泥を塗り、そこに大豆を植えた。
ほんの些細なことであっても、それらがすべて食につながった。
草刈は、時として田に面する山肌を刈る。
日照時間が短い山間の村なればこそ、山すそを刈るにも、たとえ草が作る影といえども油断がならず、広範囲となる。
石高を落とすまいと必死に刈る。
作佐の女房おカネが、この山肌を刈っているとき声を荒げて近づいてくるものがいた。
本家のおツネだった。
「ちっとっ、そこはウチの土地だがね。見ちゃおらん思うて、盗っ人が」
「なにぉう!ようもようも言いがかりを。爺さんから聞かされちょった。鍬の柄丈は昔から刈り落としいうてウチに権利があるけんね」
怒鳴り声を聞き、甚六が駆けつけ、おカネの袖をつかんで引き戻した。
「ウチにゃ切り図が残っとる。あんたんとこの爺さんも了解したもんだだよ」
甚六の田の脇の畦道ですら足立家の通路だと、おツネはこの時はっきりと言い張った。
甚六はおツネに口答えを何一つ言わなかった。
「ふん、穢多(えた)めが」
すごすごと家路に向かう甚六とおカネに、聞こえよがしにおツネが罵る。
幸いに、隣近所の連中が付近にいなかったから良かったものの「穢多」を隠して暮らしてきた以上、事が知れたら村にはおれない。
返す言葉がなかった。
穢多が住み着いていることを世間が知ったら、たちまち追い出される。
「くやしい・・・」
おカネは泣いた。
おカネの生まれ育った村なら、そのようなことを聞きつければ村中総出で相手方を打ち壊しに出かけた。
「なぜ、こんな目に・・・」
いっそのこと、おカネの生まれ育った村に引っ越してはと何度も提言をした。
「いんや」
甚六は頑として首を縦に振らなかった。
おカネの村で暮らせば、それは生活が楽になるだろうが、肝心の「穢多」の身分から子供たちを解放してやることはできない。
非人ということをひた隠しに隠す村なればこそ、行く末は明るいと考えていた。
甚六一家は、ある村から夜逃げして今の地に住まいをなしている穢多だった。
町なら宗門人別帳があって放ち手形と請け手形がなければ無宿人扱いで、当然土地は手に入らない。
ところが村、事に水飲み以下の身分になると、労働苦に逃げ出し、放置された休耕田が手付かずである。
当然それは、山間にあり日照時間が極端に少なく、取れ高も限られている田ではあるが、
庄屋とすれば、安い労働者が手に入るわけで、ありがたく受け取った。
元々村とは、現代で言うところの社会村ではなく惣村(そうそん)。
法律によってまとめられた村ではなく、てんでにより集まってできた集落。
誰もが恐れおののき、崇拝するであろう神社の力、祭りごとにかまけて取り決めが行われる。
寄合で物事を取り決めると、表面的には言いながらも、その実権はあくまでも庄屋が握り差配していた。
庄屋は、奴隷制度までもうまく活用していたのである。
その穢多が、自己の地権を申し立てるということは、他にも苦しくて土地を手放し、穢多に渡ってしまったということに他ならない。
それであっても立ち合いには必ず地区の権力者が立ち会うことが、半ば義務付けられている。
だから切り図には、その割り振りが書かれている。
現代ならさしずめ地籍調査によって書かれた土地台帳付属地図に示されているが、古くは隣同士で話し合って決めた切り図が元になっている。
切り図というのは現代の土地台帳に当たる。
役所で調べてみたところで、切り図と名の付くものに正確性はない。
大半の境界線が右の土地の持ち主と左とそれとがそれぞれに言い張るものだから、二重に重なっており、たとえ草刈であったとしても、常に争いごとが絶えなかった。
何度も言うようだが、この取り決めは地区の有力者によって定められたのもであり、勢力図が塗り替えられると境界も変わる。
「いまに罰が当たる」甚六が、つぶやくように言い放ったのも、己の身分がどうのこうのというのではなく、この勢力図の塗り替えにことである。
甚六の生家は、古くは没落した武士であった。
戦に敗れ、落ちて行ったとき、畠山と名乗っていたものが、山奥に籠り、僅かの畑と獣を狩って暮らし向きを立てる間に姓は廃れ、明治新政府になって三河と名乗った。
古くは獣の皮細工をして暮らしていたので、その由来の(皮)を(河)と変えただけであったが、知識のあるものなら穢多と察しが付く。
だが、本家が三河家を認め、部落に加えたのは訳がある。
本家、足立家はもともと非人の出であった。
事の始まりは直接聞いたわけではないが、親族間の姦通をしなければならない境遇の中、沸き起こる性欲故、やめられない性癖を持つあまり、法に照らされ身分をはく奪されて非人となった。
放免となったのは、御上に大層な貢物を贈ったことによるものだが、今は確かに普通に人とはいえ、元が非人ゆえ穢多の下に格付けされる罪人である。
昔のことを持ち出されでもしたら、周辺部落に示しがつかなくなり、事は重大であるに違いなかった。
夜逃げ同然に、それまでいた村を追われ、入沢村に入植してしばらく、
幼少だった甚六は、親が語らぬことを幸いに、手伝いに駆り出されない空き間は近所中の悪ガキ共と遊びまわった。
水遊びだろうが山遊びだろうが、おおよそ同年代の男の子は一緒になって遊んだ。
そこに身分の上下はほぼなく、あるのは年嵩だけであった。
上のやることに、何でも従って遊んでもらった。
年長者が女の子に悪戯すれば、甚六も一緒になって これに従った。
親が教えてくれるもの以外、知恵のほとんどは それら先輩諸氏の入れ知恵だった。
だから、大人の男のだれそれが、大人の女の誰某とこっそりつるんでいたなどということは、直ぐに耳に入る。
恐らく、年長者の その子の親が見聞きした噂話を子供の前で披露したことで、そう思い込んでしまったんだろう。
それをまた、女の子を相手に遊びの一環として年長者がやってみせる。
甚六の、大人になってからの性教育も、おおよそそこから来ていた。
だから、一番噂に上っていた本家の性癖には気を付けたつもりだった。
運が悪かったのは、甚六は潔癖すぎて妻に対し、警戒の言葉を口に出せなかったことにある。
気の毒なことにおスヱは、本家の性癖を知らずして犯され、山に打ち捨てられ、それを恥じて死を選んでいた。
これが生粋の村育ちの女なら、その場限りの快楽だったと、簡単に忘れ去ったに違いない。
おスヱは身分違いの地区から嫁に来たのではない。
厳格に定められた「部落」から嫁いだ。
だが、その部落は戸数も入沢村とは違い、数倍あって、しかも街に向かっても開けていた。
首位を取り巻く文化圏が違った。
集落内は、向こう三軒両隣が何を考え何をしでかすかわからない人たちの集まりではなく、何事につけ穢多社会の集団として守り合う集落だった。
産まれてこの方、ひとの妻に手を出しただのということは見たことも、聞いたこともなかった。
そんな大それたことをすれば、明日の日の目を見られないとも限らない。
それだけ穢多の集団行動とは恐ろしかった。
だが、入沢村は非人部落としての表向きの顔を持たなかった。
都合の悪いことはひたすら隠し通した。
噂としておスヱが嫁ぐ前に聞かされたのは、よその村と交流したがらない過疎地にあるということぐらいだった。
入沢村の忌み嫌う噂は、おスヱが生まれ育った集落には、その時代故届かなかったのである。
そこに送り出した親ともども油断があった。
せめても、子供たちが日ごろ、どんな遊びをしているかさえ掴んでいたら悲劇は起こらなかっただろう。
村人たちの、このような忌み嫌う因襲の多くは祭りの日に限って発散される。
地蔵さんの祭りなんぞ、お堂に籠って巨大な数珠を集まったもの総出で回す大念珠繰りが行われる。
その数珠球ひとつを摘まみながら念じ、数珠が回転するたびごとに経を読み終え祈願が叶うという。
悲しいことに根が百姓、最初のうちこそ一心不乱に念じるが、「南無阿弥陀仏」のお経以外の部分を知らぬため、疲れが出始めると邪心が沸き起こる。
摘まみ廻す数珠球が、眼を閉じて廻すと妙なものに思えてくる。
触れ合う隣の人物の手が、如何にも女の手に思えてきたりもする。
お堂にはもちろん老若男女ではなく、男だけ入れる。
女はと言うと、敷地の外で声を殺して祈る。
勤行が終わり、般若湯がたんと振る舞われて帰る段になると酒の力で気が大きくなった男衆は、周囲を取り巻いていた女子衆に手を出す。
待ちかねた女子衆は祝い事だとこれを受け入れ、またひとつ因襲がつのる。
豊作の後の秋祭りでは一層盛んにこれが行われた。
男も女も、気が大きくなって後先考えないで欲の赴くままに絡んだ。
宗教がらみの因襲であったなればこそ、罪の意識も薄れ、快楽だけを貪ったものだろう。
本家の足立庄衛門なぞ、この時だけは派手に人妻の手を引いた。
人妻も、豊作の年となれば、後々なにかしらお礼を受け取ることが出来るものと、喜んで身体を開いた。
食えなくなったからと、山を越え温泉宿に酌婦・飯盛りに出かけ、そこで見知らぬ男に操を売るより、よっぽどましだったからである。
近親相姦の恐ろしさは、こんこんと親から教えられていた。
だからこそ、湯宿で見知らぬ男相手に孕んだとしても、黙っていれば健康な子供が産める。
知ってはいたが、女たちにとって、それは屈辱でしかなかった。
普段から、幾度となく言い寄られ、機が熟して絡み合う、本家のやり方が性に合っていたからだった。
甚六も本来ならこの祭りに参加できる。
ところが、世のしきたりでは非人は普通人に戻れば参加できても、穢多は催事に参加できない決まりがあった。
それを知らない近所の者から、盛んに誘われはしたものの、甚六はやんわりとこれを断り続けていた。
つまり、おカネも立ち入ってはならないと、心に決めていたふしがある。
庄衛門が秘かに心を寄せていたことを、あの日になるまで知らなかった。
快楽事さえも村八分だったのである。
疑惑 悪しき因襲
30戸にも満たない小さな、穏やかな入沢村が騒然となった。
村でも神童で通っていた本家、足立家の跡取り、庄衛門がどうしたことか突然高台から真っ逆さまに飛び降りた。
幸いなことに、崖下にはその年、本家の母屋の屋根の葺き替えにと刈り取られ、高く積み上げられた萱があり、庄衛門はその上に頭から落ちた。
胆試しに高台から飛び降りたんだろうと、崖下で萱を刈り集めていた村の衆は思った。
「あん、高台から躊躇いもせず飛びんしゃる。本家の若さんは大したもんじゃ」
「ほんにのう。旦那は葺き替えの屋根に、よう登りんしゃらなんだが、若さんは胆のええことで」
作業に従事していた分家の嫁、おえんも、今飛び降りたばかりの庄衛門を頬を染めて見つめていた。
跡取りがなぜ、高台にいたかというと、
「庄衛門さんに見張ってもらわにゃ、分家連中にゃ境がわからんけえのう」
「ほんにほんに、長嶋さんとこ入り込んで刈ったりすりゃ、えらいことだで」
声をからして、庄衛門は下の連中に刈り取りを見張っていた。
萱葺き屋根の吹き替えは、足立家では30年ぶりとなる。
曲がった萱や寸足らずの萱が1本でも混じってしまうと、そこだけ屋根が漏ることになる。
押さえ木に使う真竹にしても、わざわざ庄衛門が出向き、竹やぶに入って選んで切り出していた。
寝る間も惜しんで体を鍛え、勉学にいそしんでいた庄衛門。
「ありゃ~、若さんがぁ~」
おえんは助け起こすべく萱の山に近づき、素っ頓狂な声を出して退いた。
おえんの声に驚いて駆けつけた村の衆も、庄衛門の姿に慄然とした。
口から泡を吹き、眼はあらぬ方向に向かって飛んでいた。
顔面は蒼白で、行動ものろのろと、見当もつかない方向によろめく、第一、口走る言葉が理解できなかった。
表情までもが一変していた。
神主に坊主とおおよそ村周辺の医の心得のあるものが呼び寄せられ、事に当たったが回復が望めないどころか、悪化する一方で、終いに座敷牢に入れられた。
「狐が憑いたとしか思えん」
誰もが囁き合ったが、おえんだけは事の真相を知っていた。
この地方ではおえんがまだ子供だった頃、飢饉に見舞われたことがある。
田植えの時期になっても雨が降らず、難儀して植えたと思ったら、今度は長雨が続いた。
気温が上がらなかったその年は大凶作となった。
本家筋は、分家に餓死者を出してはならじと頼母子講にすがった。
その返しに難渋しているときに、
「返せんなら、嫁を出せ」そう迫られた。
「本家筋の嫁に娼婦のまねごとを迫るとは・・・」
だが、袂を逆さに振っても無いものはない。
どうせ他人にくれてやるなら・・・分家の一人が婿入りした旦那の庄左エ門に断りもせず、泣きわめくおツネを強引に押さえ込み一晩中まぐわった。
明け方近くになって開放してやったものの、放精と淫液で閨はひどいありさまだった。
この様子を、隣の部屋で息を潜ませ覗いているものがいた。
作佐の女房おカネだった。
夫が本家の嫁に横恋慕していることは、うすうす気が付いていた。
それが、まさかこんな形でおツネと夫がまぐわうことになろうとは思わなかった。
おカネは心底おツネを恨んだ。
後に、夫作佐の度重なる暴力に耐え兼ね、台所の片隅で泣きながら娘おえんに話して聞かせたのが、この忌まわしいまぐわいだった。
翌日、嫁は頼母子講に借金の肩に本家から送り出されたが、一晩違いで嫁は分家の子を孕んでいた。
嫁が返されてきて十月十日(とつきとおか)、元気な男の子が生まれたが、庄左エ門はおろか、分家の誰もがこのことに口をつぐんだ。
腹の子が、誰の子なのか、知っているのは表面上は嫁だけとなった。
「あたしさえ黙っていたら・・・」
おツネは心に誓い、何事もなかったかのように振る舞った。
腕力にはたけているものの、どちらかと言えば愚鈍な作佐に対し、庄左エ門は夫庄衛門に似て利発だった。
いつしか庄衛門は、庄左エ門を自慢の息子として近隣に自慢するようになっていった。
そしてこの事件、気がふれた庄衛門の顔つきは、おえんの義父にそっくりだったのである。
入沢村の秋は深い。
紅葉は村全体を赤く染め、山々にはその年のほう年を祝うがごとくキノコ類が所狭しと生えていた。
村の人々は、刈り入れを終えると山野に憩いを求めて分け入る。
シメジや香茸、松茸と背負子(しょいこ)に入りきらぬほどお宝が採れた。
キノコ狩りの、ほんの一休みのつもりで、谷あいに向けて立つ古木に生い茂っていたアケビのい弦を見つけた甚六親子。
甚六は我が子のために、気に近づき、足元にあった小石を踏み台に古木に足をかけた。
右足に力を入れた途端に小石が砕け、甚六は谷底に転がり落ちてしまった。
「ワァ~ッ、おとっつあん」
転がり落ちるように後を追う一家。
転がり落ちた痛みで身動きできない甚六の足元には、背負子(しょいこ)からこぼれたキノコ類が散乱した。
せっかく手に苦労して採ったキノコが勿体なくて、懸命に拾う長男の竹造。
父親の容体が心配で、懸命に抱き起そうとする長女のおヨネ、その時末娘のおミヨは横臥する父の足元で妙なものを見つけ、拾い上げた。
「これ、なあに?」
おヨネが拾い上げた棒のようなものを見て、甚六は思わず後ずさりした。
よくよく見れば、長男が拾い集めているキノコに交じって、なにやら白い破片が散在する。
人骨だった。
おヨネが拾い上げたのは、大腿骨と思われた。
「儂が足をかけたのは、頭蓋骨だったのか・・・」
谷あいから見上げたアケビの弦は、甚六が片手を伸ばす、ほんの少し上で、まるで首つりに都合の良い恰好で、そこだけ支えていた枝が折れて垂れ下がっていた。
首をつらねばならなかったものの霊は、時を隔てて甚六親子を、そこに呼び寄せていた。
末の娘、おヨネが産まれてまもなく、母のおスヱが忽然と姿を消した。
2日経っても3日経っても帰ってこないおスヱに、甚六はただならぬものを感じ、庄屋の庄左エ門に相談の上、山狩りを行った。
陣頭指揮に当たった庄左エ門は、甚六の女房の扱い方が悪かったんだろうと家出説を唱え、おスヱの里方面を重点的に探させた。
甚六が、おスヱは山で迷ったことも考えられると主張したが、聞き入れてもらえなかった。
結局、おスヱは見つからぬまま、一月後に葬儀を済ませた。
甚六は入沢村に生まれながら、生家は田を持たなかった。
いや、持たなかったというより、先代が女に狂ったことで仲間から耕作地を女に貢ぐ金の代償として奪われた。
食うや食わずの生活が続いた。
食いつないでいくには、山子(やまこ)しかなかった。
「庄左エ門さん、前々から頼んどった山だがのう」
「おう、甚公か。また酒代欲しさに妙な言い訳しよる」
「いんや、コメが買えんでのう」
だが、山を買うにはそれ相当の資金がいる。
「コメが買えんもんが山のゼニ、どうやって払う?」
せせら笑うばかりだった。
資金を持たない甚六に、山を分けてくれたのは隣村の連中だった。
「甚六さん、悪いことは言わん。諦めさっしゃい。あん庄左エ門は鬼じゃ」
「じゃが、儂ァ、あの家しか住むところがないけんのう」
「まァええわい。あそこは儂らでは切り出してもゼニにならん」
「ほんに、恩に着ます」
それだけに、その山は甚六の家から歩いていくには酷すぎる、遥か彼方にあった。
甚六が、なぜにこの場所を指して子供を伴ってキノコ採りに訪れたかと言えば、それこそが入沢村の連中では道に迷う危うさに入り込めない奥地にあったからである。
そこは豊かな自然に囲まれた別天地だった。
おスヱはその日、我が子の世話を終えると、夫の待つ窯に向かった。
山越えの杣道の別れで足立庄左エ門と出会った。
「あらっ、本家の庄さん。山周りですか?」
「山を売れっていうモンがおってのう」
「こん山は、はぁ 木切ったばかりじゃけん、買ういうたら土地ごめかいのう」
「そげんこたぁ答えられんじゃろが」
「そりゃあ失礼しました」
一通りのあいさつをして、夫の待つ脇道に入って間もなく襲われた。
「誰が好き好んでこんな山奥へ・・・待ちかねとったよ」
「庄さん、上段が過ぎるんじゃないかえ」
庄左エ門であっても、誰が通るとも限らない杣道では襲えなかったと見える。
「何するんですか!こんなことがおツネさんに知れたら・・・やめて!」
「だれがお前らごときの言葉を信じるか。お前ら山子は黙って儂の言うことを聞いてりゃええんじゃ」
「本家、気がふれたか」
おスヱはひたすら山の下の方に、転がり落ちるように逃げた。
「わっははは、逃げろ逃げろ」
道々、襲っては逃し、襲っては逃しし、そのたびに着ているものをひとつひとつ引き裂き、剥ぎ取っていった。
それでもおスヱは懸命に逃げた。
庄左エ門はおスヱを、尾根一つ越えた隣の峰に追い込み、そこで身体の芯部に残る乱暴を働いた。
庄衛門にとって、美しい女ほど信用できないものはなかった。
女房のおツネは、どこの誰ともわからない男と契って胤を宿して戻ってきている。
その腹いせに、今度は本家をかさに着て、庄衛門自身が周囲の連中に女房を襲った。
おツネに負けないほどの女房を幾人も襲ったが、誰一人として最後まで庄衛門を拒絶したものはなかった。
事が始まり、時が経つにつれ、女房どもは庄衛門を包み込むようにして放精を受けてくれた。
気をよくして、この日の獲物と定めた甚六の女房に襲い掛かったのだ。
ところが甚六の女房おスヱは、最後まで庄衛門を受け入れようとはしなかった。
「たかが水飲みごときが生意気な!これでもくらえ」
おスヱの横っ面にビンタが飛んだ。
渾身の力を振り絞って逃げ惑い、抵抗を試みていたおスヱに、もう余力は残されていなかった。
殴打された瞬間、気を失ってぐったりと動かなくなった。
庄衛門は悠々と、おスヱを割り、その体内深く放精し、痕跡を一切残さぬよう始末したのち、遠回りして家路に向かった。
小柄なおスヱは、庄衛門の手によって担ぎ上げられ、更に峰続きの別の山の頂、三角点に捨てられた。
そこは入沢村と両隣村の境界に当たっていた。
おスヱは侵されて後、夫の待つ窯に、幾度も戻ろうとして放浪し立ち往生した。この村出身ではないおスヱには方角が分からなかった、諦めたが、それでも別の峰に這いあがっては夫の待つ山を探した。
汚された身体が元に戻ろうはずもない。
おスヱにはわかっていた。
庄左エ門の体液は、のたうちまわるうちに益々オスとして欲情しきっていて、ビンタで身動きが取れなくなった身体の深部に大量に放出されたであろう、身体の芯まで届けられていたことを覚悟した。
どう間違っても孕まないではいられないことを、子を産んできた母なればこそ、流れ落ちるさまで知っていた。
隠れ潜みながら甚六の姿を窯付近で見守ること3日、飲まず食わずの身体に、もう体力は残っていなかった。
死後の力を振り絞って谷あいに、よく花を咲かせるアケビの弦を探し求め、登って実を採ろうとしたが叶わず、生きる気力を失いそれで首を吊った。
甚六が、仕事に疲れると良く採ってきてくれた、おスヱの大好きな甘いアケビの、「子供たちに見せたらブランコになると言って喜ぶだろうね」と語り合った、皮肉にもその弦だった。
アケビがまとわりつく木の脇には、甚六がおスヱでもアケビが採れるよう、竹竿を、まるで柿の実を採るかの如く先をカニの手のように細工して立てかけていた。
それだけ愛着のある、しかも人も通わぬ山奥のこの木で首をくくる人物とは、女房のおスヱを置いてほかになかった。
「ようわかったよ、おスヱ。お前はあの村が嫌いなんじゃ」
骨を拾い集めると炭窯の一番奥に祭壇を設け、切り出した木を詰めていき、火をつけた。
「この窯は炭は取らん」
全ての物が完全に燃え尽き、灰になりきるまで甚六は寝ずに火を焚き続けた。
「すまんのう、おスヱ。わかっとるんじゃ、本家のヤツ」
噂は聞いていた。
止めようにも、情けないことに身分が違いすぎて口が利けなかった。
「いつか罰が当たる」
多くの女を抱える。
それは権力の象徴でもあった。
土地と財宝の奪い合いは、必然的に戦いに打ち勝つため人を増やさねばならなかった。
中央の誰かが、ろくに末も考えぬまま「産み増やせ」と一言つぶやいただけのことであったが、その命が下々に下るたびに歪めて捉えられ、女と土地の奪い合いとなる。
小競り合いは、ことあるごとに繰り返され、その度に女は奪われ、辱められた。
ひとり身の女はもちろんのこと、人妻であってもその対象となった。
夜這いである。
夜這いとは、読んで字のごとく寝込みを襲って女を犯すと思ったら大きな間違いで、昼日中であろうと、隙あらば女を襲って胤を仕込んだ。
村なればこそであった。
村人が総出で立ち働いていたなら起きないこのような事故も、せいぜい夫婦が近場で声を掛け合って働く程度で、時と場合によっては周囲に誰もいない孤独の空間で働く。
人恋しさはこの上ない。
優しくでもされようものなら、しがみつきたくもなる。
それが、隙と言えば隙になった。
便利なようであってモンペは、脇が開いていて、その気になれば容易に手を差し込める。
間違って差し込んでしまえば、邪魔になるのは腰巻だけであった。
狙われたが最後、どうあがいても逃れようがなかった。
のしかかられた女は、それらのことを必死で隠し通した。
今の世のように、医学が発達し、生まれてきた子が誰の子か、産んだ当人以外知る由もない。
そこに、女だてらに男あさりする人妻も現れた。
多くの男とまぐわい、ふんだんに子を産めば、それだけ食料は不足する。
主家の跡目相続に敗れた者は、仕方なく未開地を目指して山深く入植していった。
そしてそこでもまた、元々暮らしていた部族との諍いがあった。
諍いの結末は、必ずと言っていいほど買ったものが負けた者の女を奪う。
奪うものは奪われるものを目と鼻の先に据え置いて、その者の女を犯し胤を仕込んだ。
そうやって、奪った女を相手に胤を仕込んで子をなすことが、戦いに参加したものの褒章ともなった。
発端は気まぐれな中央に役人の独り言。
それがいつのまにか、血で血を洗う女と土地の奪い合いとなった。
戦いに敗れ、這う這うの体で逃げ延びた者は、決まって復讐に執念を燃やす。
いつの世か、仇を討たんがために周到な計画を練って、お宝を奪い返そうとした。
爺様が悟の母や紗江子の母、貞子らを相手に情交を繰り返したのも、元はと言えば己が権力や女を、あるものに奪われた、そのやるせなさを紛らすために弱い立場の者を組み敷いただけだった。
せめても、そ奴らの手にかかたとはいえ、表面上は手元に残っている女たちに向かって、我先に胤をまき散らそうと攻めよっただけだった。
いかにも勝ち組に見える爺様も、目の前で己の妻を蹂躙された口である。
たまたま近くに居合わせた地区の産婆が、ことの重大さに、爺様の妻が敵勢の胤で孕んだことを知ると、有無を言わさず先がカギ状になった串を突き刺し掻き出したと言います。
その後、いかように爺様が精魂込めて仕込もうとしても、婆様は受け付けず、生涯子を持たずして爺様は没しています。
爺様が和子に向かって言い残した「この村に、せめて儂のような・・・」とは、敵勢を退けてでも胤を仕込もうとするような豪の者がいてくれたらと。
決して爺様の思いが通じたわけではない。
紗江子と、その母貞子らは別として、悟の妻美佐子を寝取った橘遼は、その走りだったかもしれない。
目の前で美人の誉れ高い妻の美也子が、同じ村の庄屋、橘遼に襲われ、寝取られたことは、彼のこの仇を討たんやという腹の底から湧き上がる嫉妬心に火をつけた。
始まりは確かに中央の「産めよ増やせよ」の掛け声だったかもしれない。
だがそれを、地方の末の末まで行き渡らせようと、妙な努力をしたものがいなければ、殊更に今のような他人の持ち物である嫁・人妻の奪い合いが始まろうはずもない。
噂に上った人物の中の最右翼に、あの廃村の村の大地主、足立寛治がいた。
だがそれなら、爺様と比べて、それほどまでに力を持っているかと言われれば、そうでもない。
むしろ開墾地からとれる石高では、遥かに爺様のほうが上だった。
場所的にも、廃村は僻地の中の僻地、爺様の住む村のほうが、ずっと街に近く、動きがとりやすい。
頻繁に目指す、その時期が訪れた人妻のもとに通いつめ、口説き落とすには難儀なものがある。
そう考えると、最初に誰かが道をつけ、その手の女に仕込んだところに足立寛治や爺様が、うわさを聞いて忍び寄っていってお零れに預かったというほうが筋が通っている。
近隣の村々を、頻繁に渡り歩けるもので、しかも具合が丁度良くなったと診る、心得のあるもの以外、事は成しえない。
村というものは街と違う。
隣近所でも、子供ならいざ知らず、大人は滅多に顔を合わさない。
よそ者が村に這い入り込んできても、野良仕事に忙しい村人は、てんでバラバラに、或いは草深い野に、木々が生い茂る奥山にと立ち働き、顔を合わすことも、まずない。
夫婦であっても、夫が共に仕事を手伝えと、強く言わない限り思いついた場所で、これまた思いつくままに働く。
例えばその日、「その気のある」女房が、ある目的をもって夫や村人と、わざわざ離れた場所で立ち働いていたとしよう。
そして目的を持つ人物が、よくそのことを知っていたとしよう。
誰にも見とがめられず、知られることもなく誘い込まれる、その意思に従って近づける。
よろしくない目的を秘めたよそ者が入り込み、胤をまき散らすに、何の支障もないわけである。
行商であるかもしれないし、郵便配達員、昔のことと考えれば馬車引きまでも含まれよう。
だがしかし、先に述べたように「その気のある」ことを専門的にうかがい知るには、行商や馬車引きでは知識が足りなさすぎる。
ましてや行商では、海が時化ると売り物が手に入らないし、売り物があったとしても連日全戸回るほど運べないから無理がある。
かつての郵便局員は、今と違って相当優秀な人材の中から選ばれていて、必要とあらば全戸回ることもでき、家族構成から人物像まで熟知している。
だが、女性のメンスのこととなると敷居が高すぎはしないかという疑問も残る。
その点を、頻繁でなくても、捉え方さえ正確ならと考えると、各家庭をほとんど網羅していた薬売り業がある。
置き薬を売るものなら、そのあたりは別段怪しまれることなく解決するに足る聴き取りを行い、場合によっては「お試し」と称して何かを盛ったかもしれないし、秘かに明け渡させ嬲ったかもしれない。
ともかく、先人の誰かが足立寛治や爺様に先立って、本来は公にならないご婦人方の秘め事を、大胆不敵に執り行い、飽きると捨てて行った。
睦み合おうとする人妻は、最初の頃こそ絶対に夫に見つからないよう、慎重に事を運んでいる。
経験したことのある女性の、誰に聞いても異口同音にこういう。
だから、これらの悩みを調べてもらうにつけ、こういうこともやったという。
「淫臭が酷くて嫌われるんです」
「ひどいというのは、どういった程度のものですか?もし差し支えなかったら拝見できませんか?」
「ここではなんだから・・・裏を抜けたら田んぼの畔のところに萱の繁みがある。そこでなら・・・」
魅せてもいいという。
「よろしいですよ。簡単なことですから」
畑の野菜の出来を見てもらうと言い訳して出てくる塾妻に従って萱に繁みに分け入って、
「どれどれ、どんな具合なんですか?ほんの少し魅せてください」
「脇から覗くだけにしてくださいよ」
そうは言ってもモノの順序に情というものがある。
男は慎重に人妻の腰を、そろそろと抱いた。
着衣の上からではあるが、肌と肌をピッタリ密着させ、首筋に熱い吐息を吹きかけながら、その時を待った。
人妻の肌が、次第に熱気を帯びてくるのが分かり始めると、着衣越しに人妻の内股に忍び込ませた陳棒が、盛んに腰巻の中をつついた。
「・・・まだですか・・・時間が・・」
辛抱できなくなったと見えて、人妻の方からせかす言葉を口走った。
「慎重には慎重を期さないと・・・わかるでしょう?」
「・・・はい、でも」
「よろしいでしょう。具合を拝見します」
次第に力を籠め、終いには鷲掴みしてしまっていた手の指を滑り込ませ、シルを掬い取って嗅いでみて、
「これは・・・」わざと深刻な顔つきになり、耳元で囁いた。
「もう少しよく診てみないと、なんとも・・・」
一気に体制を跪く形に変え、更に分け入り、顔を秘部に埋め、片足を持ち上げつつ舌を這わす。
「んんっ、あっ、あああ・・・そこは」抵抗があった。
「辛抱してください。相当長い間患われていた部分を放置されていましたので、療治にはそれ相当の・・」
鼻にツンとくる臭気があった。
大人の女を知らないで育った亭主には、耐えがたい匂いだったのかもしれない。
嗅いだだけで胃の腑がせり上がるような感じがしたろう。
本来なら、その匂いを嗅ぐと収まりがつかなくなる部分がある。
それが逆に作用すると、狭心症の前兆のような悪心を覚える。
だが、男にとってそれは、未通に限りなく近い。
完璧なまでに寝取るには、これほど好都合な条件はなかった。
「濡れ具合がよくわかりませんので、これを・・・」
程よい張り型を、担いできた薬箱の底から取り出すと、濡れそぼったソコに挿し込む、
「あああ・・・もう、もう」
掻き回しながら、垂れ流れるシルの具合を確かめ、
「ついでに奥の方もよく診てみましょう」
亭主では拝めなかった屹立を、そっと女に握らすと、待ってましたとばかりにシルが溢れた。
期待に震える指先が、そっと切っ先をなぞった。
今や遅しと先走りが、女に組み敷くべき強い意志を伝えた。
久しぶりに見る屹立に、すっかり魅入ってしまっている隙に張り型を引き抜き、
「どうしたい? ん?」
耳元で囁いてやった。
ツンと尖った乳首を弾いた。
「あっ、ああ」
もう、どうにもならなかった。
女に握らせたままの屹立をあてがわせ、ゆっくりと腰を使って挿し込んだ。
「あああっ、いい・・・」
首っ玉にしがみついてきた。
男は反り上がった己のモノで、隅々まで掻き出した。
新たな泉が、コンコンと湧き出てくる。
腰を打ち付けるたびに、シズク交じりの肉壁を棹が擦る卑猥な音が響いた。
皺袋を伝って、シズクが滴り落ちすっかりお互いの脚は濡れそぼっている。
何年振りかの陳棒にすっかり逝かされた人妻は、相手の言うがままに妙薬をあてがわれ、約束事を取り交わした。
終わった直後には、もう待つ身となっていた。
そう、肉に酔うと極端に女は様変わりする。
萱の原で橘遼と美也子が契ったように、太鼓をたたいて舞を踊るまで派手とは言わないが、
息を呑んで見守る観衆の前であからさまに結合部を晒し、
身悶えて、のしかかる男に出し入れを繰り返えさせていることでもわかるとおり、
視姦も快感を増す道具と捉え、怒張を底支えする覗き見をわざとさせるため、あえて呼び寄せるような行動を取るようになる。
付け火をした人物は、その点を重視し、ご婦人がその域に達しかけると、サッと身を引いて後継に譲っている。
よほどの身分だったと見える。
肝心なところはこの点で、本格の不貞好きな身体になってしまったご婦人は、爺様たちがご婦人方の前に堂々と現れ、意気揚々と誘って挿し込んでしまうことが出来るほど、理性を欠いて誘ってきている。
好意さえ示してくれれば、誰彼構わずまぐわうんだというほど欲を纏ってしまっている。
そうなる直前に身を引いたことになる。
ほんの少し前の時代なら、冬場の雪に埋もれ農作業に従事できない時分には、飯盛り女・酌婦として湯治場で、亭主了解のもとで身を売った。
それからすれば、時代が少し変わっただけで、身を売るのも快楽が好きなればこそ苦も無く出来、亭主も大目に見てくれればこそ、陰で間男と契ることもできたといえる。
最高学府に学びたいが、学費はともかく、生活費の工面が出来ないと身を売る・・・は良く知るところ。
社会に出て、結婚するに至っては、当然処女として振る舞うが、実は至る所に映像が出回っていたり、その世界では超有名人だったりもする。
性に対し、あけっぴろげになっていく女性に反し、男性は身分に縛られ、物陰に潜んで事をなしたがる。
こよなく淫行に溺れてしまったオーナーだったが、水飲み上がりの悟が最初からこのような真似ができるとは思っていなかった。
「裏には、誰か別に人物が介在している」
それを突き止めれば、ひょっとしたら会社を再興出来はすまいかと考えた。
疑惑 それぞれへの復讐
「いい。ああ、恥ずかしい」
オーナーは掲げられた腰を後ろに引き寄せながら、双臀の隙間に屹立をそえ、一気に沈み込ませる。
「うっ、はあぁぁぁ・・」
壁についた両手に力を込め、和子は上体をのけぞらせた。
オーナーは、ここぞとばかりに尻を引き寄せ、グイグイとえぐりたてる。
背中をしなせた女の後ろに年老いた男が覆いかぶさっていた。
脂ぎってはいるが、老人斑が浮き出た顔といい、だらしなく弛んだ腹といい、とても女を籠絡する精力が漲っているとは言えない風体だった。
媚薬の力を借りながらそそり勃たせ、汗みずくになって女の膣を突き上げている。
観衆が見守る意味は、或いは麗しい花嫁を奇怪な幽体が媚薬の力を借りて籠絡しているとでも映ったのかもしれなかった。
この場から助け出したいが、衆人環視の中ではどうにもならないと諦めながらも、この先どうなることかと固唾をのむ男がいる。
我より恵まれた美貌と均整のとれた肢体に嫉妬し、もっと責め立て、身を滅ぼしてやってほしいと願う女がいる。
熱い眼差しが一点に集中した時、オーナーは腹の底から熱い血潮がうねり上がってきた。
右手は優しく尻の上に置いているものの、衆人に見える左手は女の太腿を、手首を鍵状に曲げ、尻を抱き寄せ、腰を突き出すようにして、ストロークのピッチを上げていく。
「あん、あん、あん・・・」
和子の漏らす声が、音響設備の整った部屋に、異様に響き渡った。
オーナーが腰を使うたびに愛液の付着した皺袋が揺れ、女のどこかに当たってパンパンと音を立てていた。
「おおぅぅ、和子!」
「ああ、○○さん・・・イキソウ・・・」
和子の声の中に、あの爺様の面影を見出し、嫉妬のあまり、一層性感が高まった。
既に和子しして、観衆の面前で堪えがたいほどの寸止めの中、クンニを強いられたとき、先走りは始まっていた。
性奴隷に向かって注がれる、嘲笑の笑みを、必死の思いで堪え、長い時間をかけて開くところまで漕ぎ着けていた。
いつもならここで、観衆の中の誰かがオーナーに代わって舞台によじ登り、和子を最後の瞬間に導く。
オーナーに許されるのは、舞台の端で和子の最期を見守って、観衆の中にいた人地の男の排出した体液の後処理をさせられるだけだった。
〈出してやる!復讐だ。和子の中に、なにがなんでも出してやる・・・〉
両手で腰を掴んで、反動をつけた一撃を叩き込んだ。
「あっ、ぁあぁぁぁ、ちょうだい・・・ いっぱいちょうだい」
「むおおぅ、まっとれ!」
根元まで挿し込んだまま切っ先を使って掻き回し、軽く引き抜いた後、ぐいっと奥まで届かせると、濁流がしぶいた。
頭頂部にツーンと戦慄が走った。
してやったりという射精感の中で、ダメ押しとばかりに突き入れると、とろけた膣肉が痙攣しながら分身を締め付ける。
〈これだ、爺様から奪いたかった和子の真の姿・・・〉
息絶えるように崩れ落ちる和子を抱きしめながら、オーナーは長かった苦難のときを思った。
順調に収益を伸ばしていた会社を、右肩下がりに貶めたオーナー。
その、不運が始まったのは、ある人物と知り合ってからだった。
順風満帆、飛ぶ鳥を落とす勢いで伸びていた収益に気を良くして、誰彼かまわず誘いに乗って連日クラブに通い詰めた。
まさに酒とバラの日々だった。
そこで紹介された女と関係を持ったことが凋落の始まりだった。
生まれも育ちも恵まれなかったオーナーは、何かにつけて人の余りもので満足するしかなかった。
生まれて初めての女との経験もそうなら、妻も上司が散々遊んで捨てた女を御下がりとして出世を条件に押し頂いた。
今ではその上司とは上下関係が逆になっているとはいえ、妻は事あるごとにその男と夫を比べ屈辱し、役立たないのを良いことにに裏切りを愉しんでいる。
結婚後にできた我が子でさえ、元を正せば自分の胤ではないことぐらい、とうに承知していた。
負け犬だったオーナーは、自制心を取り柄と思い、元上司を見返してやりたくて、休むことなく立ち働いた。
気は常に出世ごとに集中していた。
事実、妻に 時としてせがまれても愚息はほとんど役に立たなかった。
そんな折、倶楽部を通じて紹介された女から媚薬を盛られた。
どんなに体調不良のときでも、医者にも行かず、置き薬にも手を出さず、我慢して働き続けた身体に媚薬は、殊の外よく効いた。
60を前にして、生まれて初めて女を泣かすまでに屹立を使えるようになっていった。
最初は妻への復讐のつもりだったが、女の逝く様子が面白くてたまらなくなって、何度も女に媚薬を頼み込んだ。
それが、紹介してくれた男の罠だと知ったときには、もう会社は左前だった。
だが、そうとわかっていても、オーナーは薬を手放せなくなっていた。
ひとつには女房への復讐。
もうひとつは生まれを見下したものへの、一人前の男としての見栄だった。
〈本来持つ力を発揮すれば、女ごとき、簡単に屈服させられる・・・〉
なんとしても、そう思わせたかった。
自制心だけが取り柄のオーナーは、自分を罠にはめた人物の割り出しに、女は別として残りの青春をささげた。
そして掴んだのが、どうやら爺様の村から母親ともども出奔して行方不明になっていた悟の存在だった。
悟もまた、貧しく悲しい運命の中に育った。
母が産み落とした己は、実の父の子ではなく、爺様の胤であることを、ある日忍んで会いに来た爺様と母、ふたりの会話から知る。
憧れの想いで娶った妻は、同じ村の庄屋の息子と、かつて深い関係にあり、嫁いだ今でも心を寄せていることを知って狂った。
〈思い知らせてやる。あいつらに復讐してやるんだ・・・〉
父を裏切った母はもちろん許せない存在だった。
それ以上に、妻の美也子も、そして元凶である爺様も許せなかった。
妻の美也子が、時として橘に心を寄せるあまり、意地悪をして気を惹こうとしていることに腹を立て、
通りがかりに母に近寄り、挨拶かたがた母の陰部に手を差し入れ、シズクを掬って舐める爺様。
それを身を揉んで堪え、コトが終わると笑顔で見送る母。
〈お袋ともども・・・〉と考えたのも無理はない。
村を離れるにあたって、悟は廃村に出向き、噂の薬草を手当たり次第に採取した。
効き目は密かに己の身で、廃村に迷い込んだ女を使って確かめた。
その効き目を、今度は母を使って確かめようとした。
悟とともに病院に行くと言って姿を消したその母は、廃村で悟の盛った薬により狂乱し没した。
〈お袋ひとりだけ試したんじゃ効き目の真偽は問えない・・・〉
そこでもうひとり、人身御供となったのが妻の美也子だった。
隠れ潜んで自宅に辿り着き、こっそりと美也子が普段使う野良仕事に持ち出す水筒に薬物を混入させ、飲ませて様子を伺った。
事のついでに、心を寄せていた橘の元へ、美也子の卑猥極まる持ち物を届けることを忘れなかった。
もちろん、届けた陰唇の汚れが黄ばんで付着したパンティーには、薬物を、それとわからないよう塗り込んでおくことも忘れなかった。
媚薬を嗅ぎ、情念に胸を肌蹴て乳房を揉みしだく妻 美也子と、焦がれる人妻美也子の淫臭に屹立を握りしめ夜這いに駆けつける橘は、
「あああっ、待って。お願い、辛抱して・・・」
「もう待てない!いったいいつまで待たせるんだ!」
物陰から見守る悟の前でついに、薬の力も手伝ってお互いの火照った陰部をさらけ出し、交わった。
薬の効き目は上々だった。
悟はかつて、あれほど乱れた妻を診たことはなかった。
貧相と思えた乳房は、これ以上ないほど豊かに盛り上がり、乳首は闇夜でもそれとわかるほど尖って天を突いていた。
橘が唇で乳首を捉えに来るのが待ちきれなくて、美也子は自ら乳首を差し出すほどだった。
手を伸ばせば届くほどの距離で、妻の美也子は橘の屹立を、その充血した双臀に迎え入れた。
出会う前から十分に潤み過ぎていたんだろう、不貞に身をゆだねるという抵抗感はあったものの美也子は、身を揉んだ橘の屹立を一気に根元まで迎え入れ、尻を振った。
濡れ光る妻の太腿を伝うシズクに、悟もつられて己を摘まみ出し扱いていた。
〈これなら、あの男に盛っても効くはず・・・〉妻の痴態を観て、悟はほくそ笑んだ。