ありさ 割れしのぶ 第七章 芋折檻 Shyrock作
それから二日後の夜、ありさは傷心も癒えないままお座敷にあがった。 相手はもちろん丸岩である。 ありさと俊介の一件を女将はひたすら隠していたのだが、いつのまにか露呈してしまった。 織田錦の男衆のひとりに松吉という如才がない男がいた。 丸岩は従来から疑り深い性格であったため、公私共に、常に情報網を張り巡らせていた。 織田錦においては、この松吉という男が丸岩の“連絡係”の役目を担っていた。 丸岩は自分の目の届かないところでの、ありさの行動の一部始終を連絡するよう、松吉に指示をしていた。 そんなこともあって、ありさの俊介に関する一件はすでに丸岩の耳に達していたのであった。 ◇ 宴もそこそこに切り上げた丸岩は、その夜もありさを褥に誘った。 丸岩は寝床の中でありさの身体に触れながらつぶやいた。 「ふっふっふ・・・、ありさ、今晩はお前にたっぷりとお仕置きしたるさかいな。覚悟しときや」 「え?なんでどすか?」 「呆けたらあかんで。お前が学生と付合うてることぐらい、とっくに知っとるんやで。わしを騙しくさって、この女狐が!」 「そんなこといったい誰から・・・」 「誰からでもええがな。その学生にここをいじられたんか?ひっひっひ、こういう風にな~」 丸岩はありさの襦袢の裾から手を入れ、早くもまだ濡れてもいない割れ目を嬲り始めた。
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ありさ 割れしのぶ 第六章 籠の鳥 Shyrock作
それから2日後、その日は風もなくとても蒸し暑い日だった。 ありさは三味線の稽古を済ませ、手ぬぐいで額の汗を押さえながら、屋形“織田錦”に戻って来た。 「ただいまどすぅ~」 いつもならば、女将か他の者から「お帰り~」の言葉が飛んでくるのに、今日に限ってやけに静かだ。 ありさは訝しく思いながら下駄を脱ごうとすると、暖簾を潜って女将が現れた。 どうも様子が変だ。 女将が目を吊り上げてありさを睨んでいるではないか。 「ありさはん!早よあがってそこにお掛けやすな!」 「はぁ・・・」 ありさは脱いだ下駄を並べ終えると、玄関を上がって板の間に正座した。 「ありさはん、あんさん、あたしを舐めてるんちゃいますんか!?」 「ええ!?そんなことおへん!お母はんを舐めてるやなんて、そんなこと絶対あらしまへん!」 「ほな、聞きますけどなぁ、あんさんの旦那はんてどなたどす?」 「はぁ、あのぅ・・・丸岩の会長はんどす・・・」 「そうどすな?丸岩の会長はんどすわな?ほなら、もひとつ聞くけど、あんさん、学生はんと付合うてるんちゃいますんか?」 ありさは女将から学生と言う言葉を聞いた瞬間、身体中から血が引くような思いがした。
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ありさ 割れしのぶ 第五章 路地裏の愛 Shyrock作
そして日曜日。ありさは浴衣姿に薄化粧と言う言わば普段着で蛸薬師へ向った。 俊介に会える。好きな人に会える。ありさはそう思うだけで、胸が張り裂けそうなほどときめいた。 路地を曲がると子供たちが楽しそうに石けりをしている。 順番を待っている男の子に下宿の『百楽荘』がどこかと尋ねると、すぐに指を差し教えてくれた。 2~3軒向うにある木造二階建の建物らしい。 「ありささ~ん、こっちだよ~!」 待ち侘びていたのであろう。二階の窓から俊介が手招きをしていた。 「あ、本村はん、こんにちわぁ~、お待ちどしたか?」 「ああ、待ちくたびれたよ~」 「まあ」 「ちょっと待って。すぐに下に降りるから」 まもなく、ありさの目の前に愛しい男の顔が現れた。 「よく来てくれたね。かなり探したんじゃないですか?」 「いいえ~、すぐに分かりましたぇ~」 俊介に誘われて下宿に入ろうとした時、ありさは子供たちの遊ぶ姿を眺めながらにっこり笑って呟いた。 「懐かしいわぁ~、うち最後にケンパやったん、いつやったやろか・・・」 「ケンパ?」 「あれ?本村はん、ケンパ知りまへんのんかぁ?」 「石けりじゃないの?」
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ありさ 割れしのぶ 第四章 再会 Shyrock作
その後も丸岩は週に一度ぐらい、ありさを座敷に呼び夜を共にした。 逆らってもどうしようもないさだめなら、いっそ従順に努めてみようと、ありさは決心したのだった。 だが、そんな矢先、ひとつの出来事が起こった。 ありさは女将の使いで、四条烏丸の知人の屋敷へ届け物をした帰りのことだった。 届け物も無事に済ませたことを安堵し、小間物屋の店頭に飾ってあった貝紅を眺めていた。 「やぁ、きれいやわぁ~・・・」 ありさは色とりどりの貝紅に目を爛々と輝かせていた。 その時、何処ともなくありさを呼ぶ声が聞こえて来た。 「ありささん」 若い男性の声である。 (だれやろか・・・?) ありさが声のする方を振り向くと、そこには少し前におこぼの鼻緒をなおしてくれた学生本村俊介の姿があった。 「あれぇ~、お宅はんは、あの時の~。その節は鼻緒をなおしてくれはってありがとさんどしたなぁ~」 「いいえ、とんでもないです」 「あのぅ・・・」 「はい、何か?」 「今、確か『ありさ』ゆ~て呼んでくれはりましたなぁ~?」 「ええ、そうですが。違ってましたか?」 「いいえ、そやおへんのや~、おおてたよってに嬉しかったどすぅ~。よう憶えてくれたはったなぁ~思て。
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ありさ 割れしのぶ 第三章 水揚げの夜 Shyrock作
座敷には平安神宮の菖蒲の心髄にまで響くような見事な三味線の音が鳴り響き、鴨川の流れのように淀みのない扇の舞いが六月の宵に華を添えた。 華やかに賑わった座敷も幕を閉じ、芸妓達は丸岩に丁寧な挨拶を済ませ座敷を後にした。 座敷に残ったのは会長の丸岩とありさだけとなった。 待ち望んでいた時の到来に、丸岩は嬉しそうに口元をほころばせた。 「ありさ、やっと二人切りになれたなぁ」 「あ・・・、はい・・・」 虫唾が走るほど嫌な丸岩…今夜はこんな汚らわしい男に抱かれて破瓜を迎えなければならないのか。逆らうことなど微塵も許されない哀しいさだめを、ありさは呪わしくさえ思った。 「さあ、もっとこっちへ来んかいな。たんと可愛がったるさかいになぁ。ふっふっふ・・・」 丸岩が誘ってもありさは俯いてモジモジとしているだけであった。 そんなありさに痺れを切らしたのか、丸岩は畳を擦って自ら近寄り、ありさをググッと抱き寄せた。 「えらい震えとるやないか?何もそんな怖がらんでもええんやで。ふっふっふ・・・」 「あ、あきまへん・・・、あのぅ・・・お風呂に入って・・・あの・・・白粉落とさんと・・・」
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