タクシーは嵐山から保津峡へと進んでいましたが、ようやく行き先が宝塚温泉に決まったため、急遽進路を変更し京都南インターを目指すことになりました。その後名神高速で西宮インターに向かい、さらに阪神高速池田線から中国自動車道へと進み、宝塚インターを降りて国道176号線で宝塚へと向かうコースを描いたのです。
いずれにしても行き先が決まったことで、私としてはホッと胸を撫で下ろした気持ちになりました。だって目的地も決まらないまま走るのは、タクシードライバーにとってはかなり辛いものがありますからね。
いつもは混み合っている名神高速も、その日は不思議なことに空いていて珍しく快適に飛ばせました。
天王山トンネルを少し過ぎた辺りだったでしょうか。
女性は私が尋ねたわけでもないのに、突然ポツリと語り始めました。
「運転手はん、うち……実は結婚してますねん……」
「え……?あ、そうなんですか……。」
その一言を耳にした時、私にかすかな落胆があったことは正直否めませんでした。
タクシーに乗車してきたお客が未婚者であろうが既婚者であろうが、そんなこと私には関係がないはずなのですが。
「そないに見えます?」
「いいえ、お独りかと思っていました」
「やぁ、嬉しいこと言わはるわぁ。おおきにぃ。うち、結婚して3年目になるんどすえ」
「そうなんですか。でもまだお若いんでしょう?」
「今、25どす。うち一人娘やったさかい、婿養子もろたんどす。親が家の商売、どないしても絶やしたらあかんからゆうて」
「それはまた今時珍しいですね」
「ほんで、すぐ縁談、持ち上がって」
「で、好きでも無い人と結婚したと?」
「その頃、うち、好きやった人と別れた直後やったんどす……。かなり落ち込んどりましたなぁ。そんな時、親の勧めるままに、よう知らん人とお見合いして。優しそうな人に見えたし『まぁ、ええわ。誰と結婚してもおんなじや』と軽う考えて、なんぼも日が経たんうちに結婚したんどす」
「失恋の反動もあったんでしょうねえ」
「あとで考えてみたらそのとおりどしたなぁ」
「優しい人ではなかったのですか?」
「いいえ、優しいことは優しいんどすけど……」
「どんな
不満があるのですか」
私は普段なら立場上お客に決して聞かないことを、その時はつい尋ねてしまったのです。
どうしても聞きたい、と言う衝動が私の中にあったことは確かでした。
「
浮気どす……」
「え……?」
「あの人、この数ヵ月ずっと
浮気したはるんどす……」
「…………」
「一晩帰ってきいひんこともしょっちゅうあるし……そやそや、この前、スーツのポケットにラブホテルのライター入ってたんどす」
「それはまた……」
私はどう返事をすれば良いものか、言葉に窮しました。
そこまで証拠を押さえていれば、慰めの言葉も通じないでしょうし。
「うち、情けのうて……毎日が辛ろうて辛ろうて……」
女性はシクシクと泣き出しました。
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