「昨夜、私を襲ったのは誰かしら・・・。人間?それとも化け物?まさかぁ化け物だなんて・・・。あ、でも、あの冷たさは人間じゃないわ・・・」
思い出すだけでもおぞましく背筋が寒くなった。
「こんなところにいつまでも居られないわ」
一刻も早く脱出したい。
ありさはすぐに乱れた着衣を整え始めた。
格好なんて構ってる場合ではないが、彼女の持つ恥じらいというものが自然にそうさせた。
着衣を整えたありさは、早速ドアのハンドルを握った。
「開くかしら・・・」
不安がよぎる。
(ガチャ・・・)
「開いた!」
個室から出てみると、朝光が天窓から射し込んでいた。
ありさはかすかな安堵感を覚えた。
だがそれは一瞬のことだった。
ありさはすぐに公衆便所の出入り口へと向かった。
出入り口の扉からも朝の光が射し込んでいる。
光は脱出の希望を抱かせる。
ありさは公衆便所の扉を激しく叩いた。
(ガンガンガンガン!!ガンガンガンガン!!)
「お願い!!ここを開けて!!」
(ガンガンガンガン!!ガンガンガンガン!!)
「お願い!!誰か~!!私をここから出して~~~!!」
(ガンガンガンガン!!ガンガンガンガン!!)
すると突然、公衆便所の扉が開いた。
思わずありさは倒れそうになった。
開いた扉の向うには、水色の作業着を着た中年の女性が立っていた。
女性は驚いたような表情でありさを見つめている。
ありさも唖然とした表情でその女性を見つめた。
女性から先に話しかけてきた。
「あのぅ・・・一体どうされたのですか?」
「実は、と、扉が開かなくて困ってたんです!」
「えっ?まさか~。あははは、そんなはずはないですよ~。だってここは公衆便所ですよ~。ふだん鍵は掛けませんよ」
「え?・・・鍵は掛かってなかったんですか・・・?」
女性は、ありさが早朝家から飛び出してはきたが、まだ完全に目が覚めず寝ぼけているとでも思ったようだ。
ありさの慌てふためいた様子を見て、にやにやと笑っていた。
今度はありさから話しかけた。
「ところであなたは・・・?」
「はい、私はこの公衆便所の清掃作業員なんです」
「あぁ、そうなんですか・・・」
ありさは釈然としなかった。
昨夜、渾身の力をふりしぼっても開かなかった扉が、今、簡単に開いてしまっている。
まるでキツネに抓まれたようだ。
ありさは頭が混乱しそうになっていた。
しかし、理由はどうあれ脱出できたことには感謝しなければならない。
ありさはほっと安堵のため息をついた。
(でも昨夜誰かが私を襲ったことだけは紛れもない事実だわ・・・)
ありさは清掃作業員との会話の中で、昨夜起きた忌まわしい出来事だけは話さなかった。
仮に話しても「悪い夢でも見てたのでは?」と一笑に付されるのが落ちだろう。
「おばさん、ありがとう。じゃあね」
ありさは清掃作業員に軽く会釈をし公衆便所を後にした。
公園内をしばらく歩くと、身体の奥で熱い粘液がこぼれ落ちるような気がした。
粘液はパンティに吸収されていく。
かなりの量だ。
ベトベトしてきた。
不快感が走る。
(気持ち悪いなぁ・・・ナプキンを挟んでおけばよかったぁ・・・)
身体の奥に痕跡が残っている。
(やっぱり間違いない・・・昨夜私は誰かにレ イ プされたんだ・・・)
ありさが再び歩き出すと、木立の陰で何かが「カサッ」と動く気配がした。
完
愛と官能の美学
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