廃村に漂う黒い影 欲情に使命が負けた
そのたびに、事務所の連中から白い目で見られた。
女を抱きたくて狂ったように催促に来るホストみたいなやつがいる。
恥も外聞もなかった。
なんと言われようと美香の元に一時でも早く駆けつけなければ、これまでの苦労も水の泡になる。
それ以上に、情を通じ合った美香という女を手元に引き戻したかった。
じりじりと時間だけが過ぎて行った。
別班からの報告では美香の元に入れ代わり立ち代わりゲストが送り込まれているという。
だが、不思議なことにゲストが立ち去った後に、これまで送り込まれていたホストが一向に来ないと言った。
「何かが違う」その答えを探し出せずにいた。
じれる露木は別の手段に出た。
試験を受けさせられた人妻を責め、倶楽部側が動き出すのを待つことにしたのである。
前触れもなしに、露木は人妻の元を訪れた。人妻のいる階の物陰で人妻がドアを無防備に開けるチャンスを待った。
その時は来た。
丁度客を送り出すために玄関ドアを開け、人妻は去りゆく男を見送ったその、ドアの鍵を掛ける暇を与えず露木は乗り込んだ。
人妻は驚きを隠さなかった。
組織の男が乗り込んできて何かしようとしている。
それがどんなことなのか、人妻にも想像できた。
こういった手合いの人妻は、どんなに口止めしても自慢げに仲間に男達との愛だの恋だのを喋る。
つまるところ、そういった女たちが組織の底辺を作ってくれている。
派手な恋愛ゲームの果てに濃密な情事がある。
お金ではない。きわどさと男根の数だけが女たちを満たし、それが自慢にもなる。
開口一番露木は女に向かってこう言い放った。
「貴女の技量がどれほどお客様に通じるようになったか試しに来た」
最初の時、女は露木に対し全く歯が立たなかった。それを咎められていると勘違いした。
「あっ、はい、わかりました。急いで用意します」
女は懸命に客が去った後の片付けにかかった。窓を開け放って男と女に臭いを消そうともした。
「あの、シャワーを浴びてきてもいい? 汚れたままだから・・・」うつむいたまま、ポツリとこう言った。すっかり怯え切っていた。
露木は最初から女に奉仕させた。
客を送り出してからまだ時間が経っていない。
女の中に火種が必ず燻ぶっているはずだと踏んだ。
その火種に向かって、人妻がかつて、いとも簡単に逝かされた男根を与えた。
突然乗り込まれ、脅されている屈辱が欲情に変わるはずだと露木はその瞬間を待った。
ソファーに腰掛けた状態で、人妻に長い時間をかけて奉仕させた。
人妻にしてみれば、先ほど送り出した客程度ならもう何度か抜いていると思える雄々しさまで奉仕したはずなのに、露木は微動だにしないことを恐怖と合わせ焦った。
じれ始めた人妻の割れ目に添わせるよう、偶然を装い露木は伸ばした足の親指をそっとなぞらせてみた。
この自然体とも思える行動を人妻は己の熱意が通じたと喜んだ。露木が睨んだ通り、種火は奥底で燻ぶりながら残っていた。
「許しが出た」
そう感じた人妻は露木が望みもしないのに、自分勝手にソファーに上がり露木を跨いだ。
人妻は露木を指先で摘まむと熱しきった壺に切っ先を導き腰を落としてめり込ませた。
ものの5分もしないうちに人妻は露木の上で身悶えし懇願を始めていた。
「これがいいのか?」
「こうしてほしかったのか?」
露木は女に問い、言葉にならない喘ぎを聞き分け女の要望にいちいち応えてやった。全身を朱に染めて女は身悶え、男根に抗った。負けじまいと壺でしごいた。露木は女の懇願に負けたふりをし、その都度雄々しさを増してやった。ヒクつかせてやった。
なにをしたわけでもない。
この手の女が自慢げに仲間に吹聴する。本部を動かすため、それをあえてさせたかった。
女を逝かせながら「なんのことはない。美香が組織にされていることを、この女いしているだけではないか」そう思った。
そしてその通り、人妻が客を送ったのを見届けると露木は種火が消えないうちに家に入り込み徹底的に嬲った。
露木の狙い通り、やがて本部に、人妻の仲間らしき女から事後処理依頼がボチボチと舞い込むようになる。
客では満足できないから、稼がせてやった代わりに本物を寄越せと言い寄り始めた。組織では抑えきれなくなりつつあった。それが幹部に伝わった。
またしても組織は、要望に見合う男を探さなければならなくなった。
露木は再び試される時が来た。
露木に次の試験会場が組織から言い渡された。
それを聞いて露木は唖然とした。
美香が捕らわれているビルの、しかも直下の部屋に来いという。
露木は今度は誰にも伴われず、指定されたマンションの部屋に向かった。
当然部屋で、次の試験の相手をしてくれる女を待つものと思ってドアをノックした。
部屋から出てきたのは最初の試験の時と同じ受験に立ち会った女だった。
部屋に通されたが、他に誰も部屋にいる気配がなかった。
飲み物のもてなしから着てきた服の扱いまで、すべてその女が行った。
露木がソファーに身を沈めると、その脇に女がぴたりと身体を寄せてきた。
それですべてが理解できた。
女は露木に抱かれ逝かされたことを忘れてはいなかった。露木の男根を欲しがっていた。
次の受験をさせなかったのは、露木を誰にも渡したくなかったと知った。美香の元に派遣されるはずの露木に女は横恋慕した。
更にもう一つの疑問もこれで解けた。
捜査班に情報が流れなくなったのは女が情報を流すことを拒んでいたからに思えた。組織に有能な配下が潜り込ませてあると上司は言った。それが誰とは言わなかった。
つまるところ、この女こそが検察庁によって組織に送り込まれた二重スパイ、現役の検事だったのである。
送り込まれた最初のうちこそ捜査本部のために情報を流し続けた。
それが組織によって身体を弄ばれるにつれ、欲情に使命が負けた。
とすれば、今美香を操っているのはこの女だということになり、美香に近づけたくなくて妨害している真の理由が露木に抱いてほしくてということになる。
美香にレズの趣味はなかったと理解している。
その美香の身体を弄ぶこの女は美香を屈服させるため薬を使っているに違いないと思った。
なにがなんでも今日こそ鍛え抜いた男根で、元仲間だったとはいえ屈服させ、女を美香から引き剥がさない限り美香が危ないと思った。
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