惠 一期一会
それは偶然のことだった
私の運転する
タクシーがあの人を乗せたときから
めくるめく運命のぜんまいばねが回り始めた
本編は知人が体験した実体験談を小説化したものです
ただし登場人物は事実とは変えております
私が25才で
タクシー運転手を始めてから、そうですね、もうかれこれ20年経つでしょうか。
長い間この仕事をしていると、それはそれは色々なことに遭遇するものですよ。
身が縮むくらい恐い目にもあった。人の情に涙したこともあった。口惜しくて眠れない夜もあった。孤独感に苛まれた日もあった……。
色っぽい話ですか?そりゃあ、多少はありましたよ。
私にとって、今までの人生の中で最高の出来事と言えるほどのこともありましたよ。
え?聞きたいですか?自慢話に聞こえるかも知れませんけど、お話してもいいですか?
もちろん作り話なんかじゃないですよ。
全部本当にあった話なんです。
その頃私は35才で、出来事があったのは今から10年前にさかのぼります。
桜がまだ蕾の少し肌寒い日のことでした。
いやぁ、思い出すだけでもぞくぞくしてきますよ。
私にとってはそれほど鮮烈に記憶に残る出来事でした。
当時私は大阪のある
タクシー会社に勤めていました。
お客さんを
京都に送ったあと、大阪へ帰ろうとしていました。
クルマは
四条河原町から
四条烏丸へと向かっていました。
とても賑やかな通りで道路はすごく混んでいました。
信号が黄色から赤に変わったので、私はブレーキを踏みました。
確か先頭車だったと思います。
その時、歩道でこちらを向いて手を上げている若い
和服姿の女性がふと目に入りました。
(ん?困ったなあ……
京都は営業区域外なので、お客さんは乗せられないんだよなあ……)
申し訳なく思いながら、私は手を横に振りました。
『NO』の合図です。
しかし、その女性は諦めようとはせず、ずっとこっちに手を振っています。
(かなり急いでいるようだなあ……)
私は困惑しながらも、乗車拒否をするわけにはいかないので、とりあえず後部座席のドアを開きました。
私は事情を説明して丁重に断ろうと思っていたんです。
女性はドアを開けるといきなり乗ってきました。
「お客さん、せっかく乗っていただいたんだけど、これ大阪の
タクシーなんですよ。
京都でお客さんを乗せると叱られるんですよ。悪いけど地元の
タクシー拾ってくれませんかねえ」
丁寧に断ったし諦めてくれると思ったのですが、女性は一向に降りようとはしません。
「え……?あかんのどすかぁ……?そんなこと言わんと乗せてくださいなぁ、頼みますよってに……」
つやっぽい女性の
京言葉でささやかれて、私はずきりと胸が疼くような感覚に襲われました。
間近でささやかれてみると
京言葉がこんなに色っぽいとは・・・
振り返ってみると女性は色白のすごい美人で、見るからに高級そうな和服を身に着け髪はアップにしていました。
歳の頃はそうですね、24、25ぐらいだったでしょうか。
「お客さん、本当に困るんですよ…」
私はもう一度断りました。
しかし……
「お願いどすからぁ……」
和服姿の女性は梃子でもクルマから降りようとしません。
すごい美人に粘っこく懇願された私は、それ以上断ることはできませんでした。
「仕方ないですねぇ」
「えっ、行ってくれはるん?まぁ、うち、嬉しおすわぁ」
「で、どこまで行くんですか?」
「どこでもええから、走っておくれやす……」
行先を尋ねて返って来た答えに私は驚嘆しました。
「ええっ?どこでもと言われても……。行先を言ってもらわないと困るんですけどねえ」
「本当にどこでもええんどす……」
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