第8話

喉元に熱砂のような唇が這い廻る。
まりあの心を覆うベールがゆっくりと一枚ずつ剥がされていく。
「ああん……光一さん、大好き……」
「僕もだよ……」
「あぁ……嬉しい……」
唇に唇を這わせる音が静かな部屋に響きわたる。
「あぁ……あぁぁ……」
唇は首筋から耳たぶへと移行していく。
「あっ、そこは……」
まりあは意外な場所へのキスに思わず身体をのけぞらせてしまった。
それでも車本のキスは容赦なくつづく。
「あぁっ、あっ、だめっ……やぁ~ん……」
くすぐったいけれど、それでいてすごく感じるとても鋭敏な箇所、それが耳たぶ。
「いやぁ、やめてぇ~、本当にそこはダメなんですぅ~」
「そうなんだ。じゃあ、こっちに戻ろうかな?」
車本は再びまりあの唇を奪い、廻した手でうなじや背中を愛撫する。
時折、髪や首筋へも優しく触れる。
突然車本の指先がまりあの耳をふさぎ唇を重ねてきた。
するとキスの音が反響し、ひときわ官能的な気分を盛り上げていく。
まりあがふと気がついた時、ブラジャーのカップの上を車本の指がまさぐっていた。
弾力性を愉しむかのように、指にギュッと力がこもる。
まもなくブラジャーの下辺から指が忍び込み、直接肌をまさぐる。
「ああっ……」
ストラップがゆるみ、ブラジャーの下からお椀形の肉塊が顔を覗かせた。
色白な肌に薄紅色の乳首というコントラストが実に美しい。
車本はブラジャーをさらに上にたくし上げて、露出した乳首にしゃぶりついた。
「あっ……そんな……」
赤子が乳首に吸いつくような音がした。
「いやぁ……」
車本は同じ動作を繰り返す。
「あぁぁぁ……」
ペロペロと飴でも舐めるかのように唇がうごめく。
「ああっ……そんなに強く吸っちゃ……」
可愛いぼんぼりを器用に舌先で転がす車本。
「はぁ……」
車本はまりあの背中に手を回しゆっくりとホックを外した。
ブラジャーが重力に逆らうことができなくなり、まりあの乳房からはらりと放れた。
「うわぁ、きれいな胸だ……」
車本はすぐにふくよかな双丘に顔をうずめた。
男は女の乳房に顔をうずめる時、至福の歓びを感じると言う。
それは女の体内に精液を発射する快感とは全く異なる歓びだと言われている。
もしかしたら男はその瞬間、帰巣性を呼び戻すのかも知れない。
それとも己が永遠に所有し得ない秀麗な肉体への憧憬の表れなのかも知れない。
車本はその美しい双丘を激しく貪った。
左手で右乳房を揉みしだき、もう片方の乳房は熱い唇が這い廻った。
「あぁ……光一さん……あぁ……あっ……あぁぁぁ……」
昂ぶる感情を抑え切れないまりあは、悩ましげな声を漏らした。
ベッドにおける艶やかな女の声は、男の情欲を煽るための潤滑油となる。
車本の左手は乳房から離れ、ゆっくりと下方への移動した。
胸の隆起から緩やかな曲線に沿って下り、臍の周辺を数度旋回した後、更に下方へと向っていった。
指が白いショーツに触れた。
ショーツはソングタイプで、フロント部分には丁寧な刺繍が施されている。
ウェストは細いストレッチレースでできており、まりあに相応しい上質なセクシーさを醸し出していた。
レース地を車本の指がまさぐる。
下腹部には到達しているが、女の最も敏感な箇所は触れようとしない。
まもなく下腹部を撫で廻した後、更に下方へと向かい太股に到達した。
いささか拍子抜けした感があったが、まりあは目を閉じて触感で指の行先を追いかけた。
指は太ももの内側を撫で廻す。
「あっ……」
まりあの研ぎ澄まされた神経は今、内股に集中している。
太ももの内側は実は隠れたる性感帯の宝庫なのである。
まりあはいとも簡単に反応してしまった。
指はここぞとばかり性感帯を攻めてくる。
AVのコピーであるかのように性急に女性器を欲する男は、実は女性からのランキングが『C』なのである。
「あっ、そこは……!」
反射的に両脚を閉じ、車本の指を拒もうとするまりあ。
閉じさせないよう肘をこじ入れようとする車山。
力勝負だと車山に敵うはずもない。
まりあは観念したかのように脚の力を抜き従順になった。
指はゆっくりと内ももを旋回する。
「あぁ……そんなぁ……」
「まりあさん、ここ、すごく感じるようだね」
「ええ、すごく……」
「まりあさんってすごく感じやすいんだね」
「え?そんな…恥ずかしいですわ……」
指は内ももへの丁寧な愛撫を終えると、ゆっくりと脚の付け根へと向かっていった。
愛と官能の美学
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