隠れ里の大人の夜祭は萱の原のまぐわい
この伏線は既に嫁ぐ前から始まっていたのではないかと、男たちに組み敷かれながらぼんやりと思った。
何故水飲みに嫁ぐかと問われれば、他に行くところがなかったと応えるしかなかった。
美也子の生まれは、それこそ水飲み以下だった。
田舎に育ったのに田を持たなかった。
一代で両親が開墾した山の中腹の、傾斜のきつい場所にある小さな、それこそネズミの額ほどの畑がその全てだった。
あとは樵をして暮らしを立てていた。
米の飯など葬儀ででもなければ口にしたことすらない。
常なるは麦7に対し米3の割合の、牛や馬に食わせる麦を入れた麦飯が主食。
だから中学も食い物が尽きると家の手伝いに追われ、子守をしなくてはならず、ろくに学校に行く暇もなかったし、学費ももちろんなかったから卒業というのは実は押し出しみたいなものだった。
ほんの僅かでもいいからお金が欲しかった。
美人だからと付き合いを迫られた人も無いではないが、全て身分違いと断った。
美也子は水飲みの悟の母親に、生家としては法外の値段で買われるようにして嫁いだ。
当家の誉れと言われたことに気を良くし、街で聴くと、高校新卒者の初任給2ヶ月分ほどのお金だったという。
水飲みにも至らぬ家の端女にしては部が過ぎた額だった。
さりとて何か持っていきたくとも家には何もなかった。
まさに着の身着のままであり、決して手鍋下げて嫁げたわけではなかった。
結婚式は挙げず、輿入れの荷物ひとつ持たず嫁入りしてきたバツだろう、籍を入れたその日からまるで牛馬の如く扱き使われた。
それでも美也子は夢を描いていた。
悟が物珍しさからか、ほんの僅かでも暇さえあればのしかかり行為を求めてくれたからだった。
だがそれも、子供が腹にできると態度は一変した。
子育てなど無理だ、出来るはずないと泣き叫んだ。
生まれ育った実家の母と同じように臨月まで普段と変わりなく働かされた。
男達が喜んで圧し掛かり、具合が良いと喜ぶのも全て、重労働で自然に鍛え上げられた身体のたまもの。
村の女たちに比べれば見た目だけでも均整の整った身体をしており、その分男根を襞で嬲ることなどわけもなかった。
その身体をもってしても男の欲望は身勝手で際限がない。
悟も結婚して半年もすれば美也子に飽きたようなそぶりを見せ、何かにつけて母親に向かって美也子の悪口を言いふらした。
母親はその都度息子を庇った。
悟がどこかに女を見つけたらしく、母親を病院に連れて行くと言って家を出てからもう何年も経つ。
周囲に分別にある人物がいたなら、婚姻は成り立たなくなったと宣言し、美也子に見合いを勧めたろうが、実際に彼らが行ったのは我こそは間男にと夜這いを試みる不届きものに美也子の組み敷いた時の具合を聞き出そうと躍起になっただけだった。
夫であったはずの悟と間男の遼、それに今腹上にいる男達との差はどう贔屓目に見ても無いに等しいと思った。
夫は別として遼をはじめ、攻め来る男どもに対し、共通して言えることは身勝手な存在とわかっていながらも、それに反応してしまうわが身の情けなさ。
軽蔑と狂喜が入り混じる観衆の中で恥じ入ることなく、いや、逆に観られることで燃えてしまう自分がいる。
下になり、上に乗って心の中にまで割入り、屈服させようとする男がいるにもかかわらず、美也子は次に控える男が目を爛々と輝かせ狙っていることが気になっていた。
責めつつある男を早く逝かせ、次の人と交替させてあげなければ気の毒と懸命になって入り込んでくる棹をしごいた。
遼を押しのけ割入った男の、入ってきた瞬間の、その全身を突き抜ける良さ、オスの逞しさをもう一度味わいたかった。
新手はどんな手法で迫りくるか、それを思うと羞恥と欲望で惑乱せずにはいられなかったし、美也子の男の棹を扱く腰や襞、それに全身をわななかせ仰け反る動き、それがまた観衆までも欲情の輪に一層引き込んでいた。
事は月明かりの中で行われる情交、如何に視力に長けているといっても人間の視力や胆力には限界がある。
遠目遠目と言いながら、実際には身体を重ねる者と見入るものとの距離は肌が触れ合うか触れ合わないか程度の差にまで、もっと観たくて知らず知らずの間に迫ってきていた。
隣と肩や腕どころか身体全体が折り重なるほどにぎっしり詰めかけ見入っている。
かぶりつきで見入る男衆に美也子は存分に、溢れ出る淫臭を撒き散らし誘いもした。
男衆の中には美也子を抱く順番が待ちきれなく、お互い肌が触れ合う距離、欲情に心奪われていることを良いことに、隣り合う人妻であるご婦人や冨美の陰部をまさぐるものまでいた。
まさぐるといっても、それはお互いの欲情が募った自然の動作ではある。
それであっても誰もそれに対し気づき、苦情だのそのための嬌声だのあげる者はいなかった。
時折、太鼓持ちの男が目の前で行われている行為に「腰の動きが・・」とか「もっとワレメを・・」とか囃し立てたが、その都度誰彼かまわず殴りつけられ、いつしかこっそり去ってしまっていた。
耐え切れないと漏らす美也子の喘ぎに吐息、責める苦しげな男たちの息遣いだけがあたりを支配し、あとは見入る者たちの荒い息だけが闇夜に響いた。
次の順番に当たるものは、今美也子を組み敷きつつある男どもが降りたらすぐさま入れ替われるように、隣り合って並ぶ女に棹を宛がい擦らせ準備を始めていて、擦らせながら己も擦ってくれる女のワレメをお返しにと指を挿し込みこねくり回し雄々しさを増そうとまでしていた。
それをまた、その隣に居並ぶ男女が欲情しつつ観ると言った光景が秋の丑三つ時の野で繰り広げられていた。
隠れ里の大人の夜祭と言ってよかった。
美也子にはわかっていた。
本当は誰も彼ももっと性を楽しみたくて狂いまわっていたことを。
たまたま自分がその餌食にされ、観衆の面前で発情を更に促すために嬲られていることを。
ここまで村の衆に甚振られてしまってはもう、子供の元には帰れない。
子供を育てる資格は、とうに失われている。
宴が終わった明けの朝早く、美也子はひっそりと村を、子供にどこに行くと告げることなく離れた。
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