私が赤い糸の由来を語り終えると、惠は何か意味ありげな深いため息をつきました。
「どうしたの?」
「いいぇ……うち、赤い糸とは全然関係あらへん人と結婚してしもたし、なんや急に悲しゅうなってしもてぇ……」
「でもね、本当はご主人と赤い糸で繋がってるけど、たまたま今の惠には見えないだけじゃないのかな?」
「そんなことおへん。うちの人とは赤い糸も青い糸もあらしまへん」
惠は吐き捨てるようにつぶやきました。
これ以上赤い糸の話題を続けるべきではないと考えた私は、惠の
背中を流していて偶然見つけた
うなじのほくろに話題を変えました。
「あれ?」
「どないしはりましたん?」
「こんなところにほくろがあるね」
そうささやきながら
惠のうなじに軽く触れました。
「
うなじのほくろのことどすか?」
「そう」
「これ、衣装ぼくろと言うんどすぇ」
「衣装ぼくろ?へぇ、初めて聞いたね。どういう意味なの?」
「ちっちゃい時お母はんに聞いた話どすけど、なんでも、うなじにほくろがあると『衣装ぼくろ』言うて、一生、着物に困らへんちゅう話どすぅ」
「へぇ~それはいいね~。
一生着物に困らないと言うことは、言い換えれば
生涯裕福に暮らせると言うことだよね。いいなあ~」
「あはは、せやけど、
迷信どすぇ」
「いいや、きっと当たってると思うよ~」
「そうどすか?それやったら嬉しおすけどぉ。おほほほ……」
その時、そっとうなじにくちづけをしました。
きっちりと流していなかったので、少し石鹸の苦い味がしました。
惠はくすぐったかったのか、首をきゅっとすぼめました。
「あっ…こそばい……」
私は泡だらけの惠の背中に身体を寄せました。
私の胸と惠の背中が密着しています。
惠の肩に顎を乗せるような姿勢で、背後から抱きしめ乳房に触れました。
「あっ……」
突然惠への愛おしさがこみ上げ、背後から強く抱きしめました。
「裕太はん……」
「惠……」
頬が
惠のうなじとぴったりくっついています。
「しあわせやわぁ……」
「僕も……」
「ずっとこのままやったらええのにぃ……」
「そうだね……」
惠は何気に後ろを振り返りました。
そして私の顔を見てクスクス笑い出しました。
「どうしたの?」
「そやかて裕太はんの顔に石鹸がぁ」
「えっ?」
惠があまりに笑うので鏡を覗き込んでみました。
すると鼻の頭に泡がついていて、まるでピエロの顔のようになっています。
私はすぐに石鹸を洗い流し、
「そんなに笑わなくても」
「せやけど、おかしいんやもん~。あはははははは~」
「そんなにおかしい……?わはははははは~~~」
惠があまりに笑うので、つい私もつられ笑いをしてしまいました。
ふたりのしっぽりとした甘い夜なのに、浴室内が少し不釣合いな笑い声に包まれました。
でもそれは、
とろけるような官能劇の
ほんの合間に過ぎなかったのでした。
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