【シェアハウスのように】指令その1 妻の浮気の証拠を掴め!
しかも驚いたことに依頼者は山尾敏夫本人で、
横山の任務というのが建前上家族の送り迎えをこなしながら、
外遊びが派手な横山の妻艶子の不倫の証拠を探し出し、
その証拠となる画像や音声を媒体に納めて来いというものだった。
使用目的は離婚訴訟に使うというもの。
山尾は特段金銭に困っていたわけではない。
むしろ裕福だったがこの件で弁護士に依頼するには肩書が邪魔になった。
秘密裏に、出来る限り穏便に離婚に持ち込みたかったのである。
男が外で女を作り家族を顧みないなどということは昭和も中盤まではよくあることだった。
ところが世が平成となり男女雇用機会均等法などというものが施工され、男性と同等、
いやそれ以上にもてはやされ始めると状況は一変した。
元々子育ての時代、
可愛さ余って苦労を避けて通してやろうとした親の下手な庇いが裏目に出、
家事育児を女性蔑視と捉え外に働きに出ることだけが良い女という風潮が高まって、
かつての男性と同等かそれ以上に遊び歩くようになっていった。
経済的な裏打ちのある女性の不倫は益々家族・子供との生活を疎遠にさせた。
加えて悪かったのが夫の敏夫の態度で、
我が子を産んでくれ自身を受け入れてくれたことのある妻を男から取り返したい一心で、
朝起きてこない妻に食事を運んだり子供の食事を含め授業参観から掃除洗濯まで一切合切頑張ったことにあった。
そう、
山尾敏夫は妻敏子が結婚当日になってもそれまで秘密裏に付き合っていた既婚男性との縁を切ることが出来ず、
肉体関係を続けていることを知ったうえで結婚していたのである。
このような生活が続くと子供たちはもちろん、敏夫の親や親戚兄弟も艶子を避けて通るようになる。
それが艶子にして益々外遊びに拍車をかけた。
山尾敏夫の稼ぎが安定し、
子供ふたりも小学校に通うようになると元々家事をまったくしなかった艶子は益々暇を持て余すようになり、
銀行に臨職として勤めるようになった。
そして、
それまでなら結婚前から付き合っていた男
斎藤彰だけだったものが今日ではお客様と称する男たちと逢瀬を楽しむまで発展したのである。
原因は顧客獲得の方法で、艶子はこの頃では既に廃れてしまった個別訪問・肉体で契約を取る方式を繰り返したのである。
単発契約ではあったが成績は向上し、職場での席順も上がっていった。
山尾の勤める会社では系列あげて子育てに積極的で育休も認められている反面、
地方銀行の艶子の勤め先は季節になれば深夜勤でもお構いなしにお声がかかり顧客獲得のため各戸を回らされる。
そのため昼・夜の区別なく頻繁に顧客と称する輩から電話やらの連絡が入る。
これが堂々と深夜に抜け出せる口実になった。
ある夜のこと、
風呂に入ろうとした艶子は忙しさのあまりスマホを寝室に置き忘れてトイレに向かってしまっていた。
艶子は性の部分でも男勝りなところがあり、
下着にパットを入れるのを忘れてしまうと男と接しすぎた場合すぐわかるほどに汚してしまうことが度々あった。
夫の敏夫は最初の頃こそ別段何の疑問も持たずこれを洗っていたが、
あまりに汚れが落ちにくいため、キッチンハイターを使って手もみしたことがあった。
当然その部分は妙に変色し、生地が傷み下着が使えなくなった。
ここまでなら男の家事と笑い話で片付きもした、
ところがこの下着は新しい男が肉体関係をもてることを期待して買ってくれていたものだった。
そこで艶子はこれ以降大きなパットを使用するようになり、風呂の前にトイレに汚れたソレを外し、
隠し持って風呂に入るようになっていた。
丁度スマホを置き忘れた日は昼間に男と出会い、
--直後に知ったことだが--
車の中で散々甚振られ汚してしまったことに気を取られトイレに走ってしまい、
しかもスマホに入浴後肝心な連絡が入ることに精神が集中してしまい、
返答を考えているうちにベッド上にLINE画面を開いたまま投げ出してきてしまっていた。
妻艶子の着替えを持っていこうとして夫 敏夫は妻のLINEに何か連絡が入ったことを知り、
これを妻に伝えようと悪いとは思わず読んだ。
そこに書かれてあったのが
「本当に泊りがけで出かけても大丈夫?」という問いに
「だって出したかったんでしょ?」と応え
「今夜は良かった?(アソコ)どうなってた?」に
「気になる?貴方は気にするけど、夫なんかなんとも思っていないわ。
連れて行ってくれるなら慰謝料をふんだくって家を出てもいい」と返していたことだった。
妻の為と思ってこれまで頑張ってきたのに、離婚や慰謝料という現実的な文字が敏夫につき付けられた。
ここまで言い切って外に男を作って家族を顧みない妻艶子に慰謝料など払う気にならないが、
それ以上に今日の裁判例では子供の親権は母親に委ねられるというのが通例になっていることが気になった。
艶子が家事育児もせず、稼いだお金はほとんど男に貢ぎ、
一方的に夫を悪者に仕立て慰謝料と親権を要求するのには子の父として、
また正当な夫として我慢が出来なかった。
横山に下した命令とは、
誰か男をあてがい艶子をして今の男たちと別れさせ屈服させ、その証拠を持ち帰れというもの。
LINEに送られてきた画像では陽光眩しい山中で露出している妻が映っていたが、横山には男たちとまぐわう様子を細部まで克明に映して来いというもの。
無駄な裁判費用や日数をかけず穏便に無一文で追い出し、職業人としてこれからの人生を送らせようというものだった。
横山は翌日から忠実に運転手を務めた。
元々愚直すぎる横山の言動に艶子はすぐに気を許し、
常は警戒して公共機関を使うかタクシーを拾って出かけて行っていたものが横山に変わった。
横山に運転させておいて後部座席から横山をからかった。
ある時などブラやパンティーなど下着が男の好みに合うか室内ミラー越しにチラ魅せし、意見を聞いてきた。
またある時など、複数の男からの連絡内容を写真を添えてナマで魅せ付け横山の反応を窺った。
運転中の横山に向かって後ろの席から上体を乗り出し胸の奥の蕾を魅せ付け、
耳たぶに熱い吐息を吹きかけるような素振りをしながらである。
「誘ってやがる」映像を見た長瀬の声が班中に響いた。
同窓生の間ではモテない、
結婚に適さないことで有名だった艶子はその屈辱を、
このような手段で晴らすんだと躍起になっていると横山は診た。
艶子に軽い口臭を感じたからである。
女性の口臭はホルモンの分泌量の変化によって口腔内の血液循環のに影響を与えることから高まりをみせる。
悪臭とはいいがたいまでも増えていた。
つまり早い時期に最も性欲旺盛な男性を見つけまぐわうだろうと予測された。
既に派遣された翌日から長瀬を長とする興信所まがい班は動き出していた。
彼らに向かって横山は車に中での出来事をライブカメラを通して一部始終報告していた。