岐路に立つ
そこに待っていたのは廃村のお宝を掠め取ろうとする連中だった。
全裸で現れた女に、欲情を剥き出しにして襲いかかった。
遊び疲れると、奪ったお宝と一緒に街で叩き売られた。
正一は僅かに遅れて小屋に辿り着いたが、探せる場所としてはそこ以外になく、諦めて街に舞い戻っていた。
和子が小屋に運ばれたのはそれから数日後のことになる。
彼らは何事につけ痕跡を残すようなまねはしなかった。
運ばれてきた和子も、まさかそこに美紀や正一が立ち寄ったなどとは知らず、助けを求めて逃げ回る中で村の連中に弄ばれ一旦は使い捨ての如く放置されていた。
その和子の、救出と言おうか脱出に手を貸したのが土工の仲間の少年だった。
大人の連中の末席に据え置かれ、あの夜和子を浚う手伝いをさせられ、使い終わった和子に大人の連中に言われるままに挿し込むことができたひとりの少年は、そのえもいわれぬ感触が忘れられず、事が行われた昼日中、再び小屋を訪れコトに及ぼうとした。
山から脱出したくても方向感覚が定まらず、ふさぎ込んでいた和子の目の前に、年端もいかない少年が突然立った。
昨晩は和子にとって鼻を摘ままれてもわからないほどの漆黒の闇の中での情交が繰り返された。
目の前に立つ少年が、まさかその最後にのしかかり、和子をして延々情欲に苦しめてくれた男とは気が付かなかった。
漆黒の闇の中では、目に見えるものよりむしろ身体で感じるものの方が正確な場合がある。
和子が放心してしまうほど情欲を感じた男を、爺様と同じような年嵩だと勘違いしたのも無理はない。
むしろそのことが幸運を呼んだ。
和子は少年に向かって素直に街に案内してくれるよう頼んだ。
眩しいほどの光の中で見る和子は、少年にとって美しい女神にでも見えたのだろう。
素直に和子を、村人の目を警戒し、避けつつ脇道を通って街へ案内してくれた。
もうこの坂をまっすぐ下ればそこは街という場所で、和子は案内してくれた少年に向かってお礼のつもりで身体を開いた。
「あの小屋に来てくれた時からわかってたよ。本当はこれが欲しかったんでしょう?」
助かったという安堵のあてずっぽうだった。
少年は導かれるままに和子に押し入った。
コトの最中に和子は何度も少年を見返した。
欲情が湧き起こるかに思え、のけぞりかけて目を逸らした瞬間、現実に引き戻された。
決死の覚悟で抜け出そうとした街がそこにある。帰りたい気持ちが頭をかすめ咄嗟に、悶えて逝く演技をしていた。
少年が果てると和子はそそくさと身支度を整え、街へ下っていた。
姿が見えなくなるまで見送った少年は、村への道を引き返していった。
双方が相手の棲む方向に向かわなかったのは分別だった。
生きてきた世界が違えば、そこに住むため人の心も変わらなければならない。
和子にとって、村で出会った男たちは確かに身体の相性は良かった。
だが、その生活習慣があまりに違うため、閨で深く睦み合うことができたとしても、到底それに合わせて生活する気持ちにはなれなかった。
少年とて同じで、高台から見下ろす煙る都会の空の下で、たとえ和子の身体に毎夜お世話になれたとしても暮して行ける自信はなかった。
お互いが元居た棲家に舞い戻っていた。
街を後にした3人のうち美紀を除くふたりは元の生活に戻った。
和子も、会社に詫びて正一と同じ職場に戻っていった。
お互いの根底にある気持ちを知って、顔を合わせても素知らぬ風を装う毎日に変わった。
回りまわって、結局知り合う前の位置に戻ったことになる。
美紀だけがゆくあてもなく、色町で飼われていた。
それが命運を分けた分岐点だった。
来る日も来る日も情熱を傾け、男たちが身体の上を通り過ぎて行った。
正一をはじめ、村の連中と契ったときのように情熱を傾けることなど一切なくなったが、その分演技だけはその時以上にこなせるようになっていた。
身体の上を通り過ぎる男たちに、時に罪を意識し、時に煩わしくも感じたりした。
それであっても「久しぶり」に身体が空くのは、時折体調を崩し、男衆から病院に連れて行かれた、その日だけだった。
男への憧れなどすっかり消し飛び、あるのはただ今日何本こなしたかだけの男衆への機嫌取りと、あとは詰所に貼り出されるグラフに現れた金の世界、見栄と意地だけだった。
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